評価プロセス等の設計
人事評価というのは「何をどのように評価するか」に加え、「誰が評価をするか」も重要です。
たとえば、評価を行う観点のうち、『プロセス』で評価をする場合、評価者は、どのように被評価者が仕事を行っていたかを近くで見ることができる直属の上司が望ましいでしょう。
どの立場の人に対して、誰が評価を行うのかということを含めて評価プロセスを設計しておくことが重要です。
人事評価の運用主体は人事担当者ではなく、各現場で働いている社員とその上司です。
そのため、評価の方法や評価プロセスは、人事評価に精通していない現場の社員でも運用ができるよう、可能な限り効率的な設計にし、負荷が低くわかりやすい仕組みにする必要があります。
また、評価プロセス設計の過程で、評価シートや評価表を参照しながら「どのプロセスでどの項目を記入・更新する必要があるか」を把握しておくことも重要です。
加えて、評価プロセスをシステム化する場合は、前提としてシステムに実装できる評価プロセスを設計しなければなりません。
システムを管理しているメンバーを評価プロセス設計に巻き込むなどの工夫をしながら設計を進めるとよいでしょう。
評価制度を運用する上での注意
評価プロセス設計が完了し、制度の導入が済めば、いよいよ運用を始めることになります。
しかし、実際に制度運用を行ってみると、評価制度の趣旨と異なる運用がなされ、想定通りの効果が得られない、ということがよくあります。
綿密に設計した評価制度にもかかわらず、いざ始めるとうまく運用がなされず、想定通りの効果が得られないのはなぜでしょうか。
それは、社員の評価制度に対する理解度が低いためです。
評価制度の運用主体である各現場で働いている社員とその上司は自身の仕事上の経験値、働くうえで大切にしている価値観を用いて、評価を行いますし、自分への評価を受け取ります。
しかし、それが評価制度の根幹となる考え方と一致していなければ、想定していたような評価制度の運用がなされません。
つまり、効果的な評価制度運用のために最も重要なことは、評価制度を正しく理解してもらうことで、その考え方に沿って評価を行う、評価結果を受け止めるという前提を全社員で共有することです。
評価者研修などの学びの場を通じた理解度向上や、評価制度の説明資料とは別に、運用上つまずきやすいポイントをわかりやすく説明したガイドブック・動画の作成など、評価者・被評価者がほしい情報を手に入れられる環境づくりを行うとよいでしょう。
評価制度を社員に正しく理解してもらったあとも、定期的にモニタリングを行いながら、制度運用の質を向上させるための工夫を続けていくことが重要です。
また、運用していく中で表面化してくる課題の例としては「評価結果が高すぎる(寛大化傾向)・低すぎる(厳格化傾向)」や「評価差がつけられず、全員が標準評価になってしまう(中心化傾向)」などが挙げられます。
このような場合には、評価者の考え方や視点・基準をより明確に示す、評価に関わる人数を増やす、といった工夫を行うと効果的です。
たとえば、直属の上司だけでなく、上司の上司も評価に関与させるプロセスを設計することで、より広い範囲を見る評価者の視点で直属の上司の評価結果を確認し、その妥当性を検証することができます。
ただし、評価に関わる人数が増えると、評価結果の確定までに要する時間も増加します。
現場の社員が評価にかけられる時間は限られているため、プロセスの数を実際に運用できる範囲内に収めることも重要です。
人事担当者は、各社員が評価制度を運用することを念頭に置きながら、設計しなければならないことと、評価制度の目的の達成を阻害する要因を見極め、効果的な施策を実施し続けましょう。
評価制度に関するトレンド
これまで、一般的な評価制度やそのプロセスのつくり方、考え方を説明してきました。
これらは企業の歴史や規模などによらず汎用的に適用できるものですが、ここからは近年トレンドとなっている仕組みのつくり方をいくつか紹介します。
ノーレーティング
レーティングとは、AやBなどの評価結果を付けることを指します。
『ノーレーティング』は、このような類型化された評価結果を用いずに評価制度を運用する方法です。
『ノーレーティング』が注目されている背景として、近年、評価が報酬や昇格といった処遇を決定するためのものから、育成のための評価へと焦点がシフトしつつある傾向が挙げられます。
ただし、類型化された評価結果がない場合でも、成果と処遇が見合うようにしなければなりません。
『ノーレーティング』の場合には、評価者や事業利益の責任者など、人事権を持つ社員が個別に判断を行うことになるため、より高い管理能力を求められます。
こうした点を踏まえてもなお、個々の成長に資する評価制度として、『ノーレーティング』の仕組みが1つのトレンドとなっています。
OKR
『OKR』は昨今Googleなどで導入されている目標設定の手法の一つで、Objects and Key Resultsの頭文字を取ったものです。
『ノーレーティング』は評価の方法に特徴がありましたが、『OKR』は目標設定の考え方に特徴があります。
たとえば、従来の目標設定の考え方の一つである『目標管理制度』は、組織全体の目標を個人に分割し、組織目標達成につなげる考え方です。
一方、『OKR』では、6~7割程度の達成でも成功とみなすほどの『チャレンジングな目標』を設定し、具体的な成果指標を組織として定めます。
下位組織はそれをゴールとして、さらに具体的な成果指標に落とし込み、最終的に個々人の目標となるまで具体化していきます。
従来の厳格に目標達成を目指す『目標管理制度』 とは異なり、達成困難な目標で意欲を掻き立てる『OKR』は、そこから生まれるモチベーションやエンゲージメントの向上を重視した仕組みです。
また、『OKR』では成果指標を細かいサイクルで見直し、個人がチャレンジや振り返りを繰り返します。
これによって、予想もしなかった大きな成果が生まれる可能性があるのです。
目指す状態を組織全体で達成するという趣旨においては、『目標管理制度』と『OKR』には通ずる部分があります。
『目標管理制度』を基本の仕組みとしながら、運用において『OKR』のエッセンスを取り入れる、またはその反対という設計も可能です。
評価制度設計においては目標管理制度が主流ではありますが、これが唯一の仕組みではありません。
評価制度の目的を踏まえた工夫やトレンドを把握し、取り入れることで、効果的な評価制度を構築することにつながります。