経営人材

2026.09.04

失敗はもう絶対ありき。
13年連続増収増益・SOLIA西口征郎氏が語る
「進化しつづける組織のつくり方」

失敗はもう絶対ありき。<br>13年連続増収増益・SOLIA西口征郎氏が語る<br>「進化しつづける組織のつくり方」</br>

各業界の第一線で活躍する人物に、仕事への向き合い方から経営哲学までを聞く本対談。今回、Luvir Consulting代表の中川裕貴が話を聞いたのは、株式会社SOLIA代表取締役の西口征郎氏だ。

アロベビーをはじめ複数のヒットブランドを育て、創業以来13年連続で増収増益。売上は80億円を超えた。だがその歩みは、決して連戦連勝ではない。むしろ「4回外した」時期があったという。

前半で迫るのは、P&Gから消費財ベンチャーへ飛び込んだ起業の原点と、「進化」という一語に集約される成長の設計思想。後半のテーマは組織づくりだ。社員が20〜30人に増えた頃、西口氏の会社は一度つまずく。良かれと社員の要望に応えるほど、満足度はむしろ上がらなかった――。

そこから何を変えたのか。マネージャーの適性、社長と現場の距離、意思決定の仕組みまで。30〜50人の“壁”に悩む経営者へのヒントが詰まった一本である。

●西口 征郎(にしぐち・ゆきお)氏 プロフィール
株式会社SOLIA 代表取締役。
1982年生まれ。2007年、京都大学大学院工学研究科を修了後、P&Gマーケティング本部に入社し、ファブリーズやジョイなどのマーケティングに従事。

かねてより起業への志を持ち、まずは友人のITベンチャーに参画。IT領域での実務を通じて「自分が生業とすべきは、好きな領域=消費財だ」と見極め、2013年に株式会社SOLIAを設立した。
ベビー向けオーガニックスキンケア「ALOBABY(アロベビー)」はAmazon・楽天で各部門1位を獲得。
以降、メンズケア・プロテインの「AMBiQUE(アンビーク)」、ヘアケア「Linon」など複数ブランドを展開し、自社を「消費財ベンチャー企業」と定義する。

創業以来13年連続で増収増益を続け、2025年には売上80億円を突破。今後10年で売上500億円規模と上場を視野に入れている。
●中川 裕貴 プロフィール
Luvir Consulting株式会社 代表取締役/CEO

――西口社長は京都大学の大学院を出られてP&Gに進まれ、そこから起業されています。まずはその経緯から伺えますか。

西口社長:大学時代から起業家に憧れがありました。ただ、いきなり起業するのは怖い。まずはP&Gで力をつけようと考えたんです。5年ほどいる中で、同級生に起業する人間も出てきて、大企業にい続ける自分に焦りも感じました。とはいえ、いきなり起業したわけではなく、友人がITベンチャーを立ち上げたので、まずはそこにジョインする形で飛び込みました。

――その時点で「消費財で起業する」という思いは固まっていたのですか。

西口社長:いえ、当時は「ベンチャー=IT」という思い込みがあったんです。しばらくコミットするつもりで友人の会社に行った。でも実際にやってみて、ITは自分が生業とする分野ではないと気づいた。それが大きかったですね。やるなら、自分の好きな領域でやりたい、と。それで消費財のベンチャーを自分で始めました。

――創業以来13年、増収増益を続け、2025年には売上80億円超。改めて、SOLIAはどんな組織で、どこに強みがあるとお考えですか。

西口社長:我々がいま掲げている「進化」という言葉に、ある意味すべて集約されると思っています。人もブランドも組織も、進化し続けてきた。ただ、業績が順調でも、すべてがうまくいってきたわけではありません。最初にアロベビーが当たったのは、正直ラッキーだった部分も多分にあります。次のヒットであるアンビークは2021年ですが、創業は2013年。その間の4〜5年、第二のブランドを作ろうと四苦八苦していて、4回くらい外しているんですよ。

――以前、西口社長が掲げておられた「9割は想定外」という言葉が、とても良いなと思っていて。そのマインドでないと、仕事は持たないのではないかと。

西口社長:仕事は、うまくいくことのほうが稀くらいに思っておいたほうがいい。「9割は想定外」という言い方を社内で連呼しているわけではないのですが、「失敗があるから成功がある」という考え自体は、けっこう浸透している気がします。特にベンチャーは失敗が本当に多い。だからこそ、失敗した“次のアクション”が大事なんです。マインドと行動、その両方ですね。

――その「失敗を前提に進化する」という考え方は、事業だけでなく組織づくりにも通じているように感じます。実際、組織が拡大する中でうまくいかない時期もあったと伺いました。

西口社長:ちょうど組織が20人、30人になってきた頃です。10人くらいまでは全員に目が行き届き、しっかりコミュニケーションも取れていた。それができなくなっていった。すると、以前は耳に入らなかった会社への不平不満や、社員同士のちょっとした陰口が、直接・間接に入ってくることがすごく増えたんです。

――まさに今うちがその規模で、痛いほど分かります。笑

西口社長:当時は仕組みらしい仕組みもなく、「みんなで頑張ろう」の勢いで来ていた。だから世間の常識や働き方改革に合わせ、メンバーの要望にも応えて、いろいろ与えていったんです。でも、与えれば与えるほど会社が良くなるかというと、全然そんなことはない。むしろ「この人はくれる人だ」と、与えるほど欲しがる。一瞬は満足度が上がるんですが、本質的な満足度は上がっていない。数年経って、そう気づきました。

――自信がないと、「この人の期待に応えないと辞めてしまうのでは」と怖くなって、応え続けてしまう。私も少し前はそうでした。

西口社長:そこで気づいたのは、相手に合わせるのではなく、自社の“軸”をとにかくしっかりさせることでした。会社も人と同じで、絶対的にいい会社があるわけではなく、相性なんです。この人には最高でも、別の人には働きづらい。だから従業員を見るのではなく、「自分が作りたい会社は何か」を突き詰めるように変わっていきました。

――軸をつくる過程で、合わない人は辞めていく、ということも起きましたか。

西口社長:出てきました。ただ、退職率が上がったというより、大きく変わったのは退職者が出たときのメンバーの反応です。以前は「また辞めた、うちの会社大丈夫か」とざわざわしていた。それが今は「合わなかったなら、お互いにとってしょうがないよね」という空気になってきた。10 年かけて、だいぶ変わりました。

――うちも今 25 人規模で、3 年半ほど退職ゼロだったのが直近半年で 3 人辞めて、まさにざわざわしている時期です。その変化は希望が持てます。


西口社長:合う人が残るべきだし、合わない人はお互いハッピーじゃない。その受け止めが徐々に浸透してくると、変わってきます。

――要望に応えることではないとすれば、人の意欲は本来どこから生まれるとお考えですか。

西口社長:一番いいのは、自分でモチベーションをコントロールできる「自燃型(セルフモチベーター)」。ただ、これは全体の2〜3割くらいだと思っています。多くは、周りが頑張っていれば頑張る「他燃型」。会社としては、まずセルフモチベーターのモチベーションを下げないことが極めて重要です。そのうえで大事なのが二つ。「価値観の一致」と、「会社の方向性と本人のキャリアビジョンの一致」。この二つが揃えば、彼らは勝手に頑張ってくれます。

――他燃型の方々は、どうモチベートしていくのでしょう。

西口社長:そこはまだ試行錯誤中というのが正直な答えです。ただ、自燃型が近くにいることが必要条件だと思っています。チームの要所に、価値観の一致した自燃型が点在していれば、他燃型もその中で比較的燃えてくれる。

――“配置・組み合わせを変える”という発想は新鮮です。人事の現場では、つい金銭的インセンティブや労働環境、やりがいの話になりがちで。

西口社長:いい上司って、必ずしも優しい上司ではなくて、厳しいけれど部下が高いモチベーションで頑張っている、ということがありますよね。人によって人は変わる。あと、新卒は自燃型が多いんです。真っ白で「頑張るぞ」と思っている。その姿を前にすると、中途の方々も悪口を言わなくなる。新卒がいい空気を作ってくれている面はありますね。

――マネージャークラスが8名から3名になられたと伺いました。この背景には、どんな問題意識が。

西口社長:意図的に減らしたのではなく、結果的に退職が続いたんです。辞めた方を振り返ると、うちで価値観を満たしながらパフォーマンスを出しきれていなかった面もある。そこで気づいたのが、承認欲求が人をダメにしている部分がある、ということです。承認欲求は誰にでもあるし、あっていい。ただ、我々の言う「進化欲」――自分の進化も、組織の進化も、部下の進化も求める欲――より、承認欲求のほうが大きくなっている人は、マネージャーとしてはイマイチになってくる。

――会社のゴールよりも、上司の顔色や部下からの称賛に目的が移ってしまう。

西口社長:一番分かりやすいのは、部下に好かれようとすること。本当は厳しく言わないといけない場面で、嫌われたくないから言わず、なあなあにする。そうすると組織が少しずつ腐っていく。マネージャーは部下の人生を背負い、会社の未来も背負う要職です。自分の気持ちよさよりも、会社と部下の成長・進化を優先すべきなんです。

――その承認欲求は、抑えられるものでしょうか。それとも資質でしょうか。

西口社長:どちらかというと後者に近いと思っています。マネージャー向きの資質ではない、というだけで、一プレイヤーとして輝いてもらえばいい。逆に、機能しているマネージャーに共通するのは二つ。一つは、マネージャーはチームから見れば“会社の体現者”ですから、決まった方針を疑いなく牽引する自負があること。もう一つは、好かれようとせず、短期的に嫌われても、数年後に感謝されることを目指して、言うべきを言い、褒めるべきを褒める一貫したスタンスを貫けることです。

――一方で、上司の役割は決めることより、チームに考えさせることだ、とも伺いました。とても印象的でした。

西口社長:創業当時から大事にしています。言われたことをやるのはただの作業で、それなら社員はいらない。どんなことでも「君はどう思う?」と問い、常に自分の意見を持たせる。理想は、部下が「こうこうで、こうしたいです」と持ってきたら、上司は「イエス」と言うだけでいい状態です。最終承認は私がやればいい。でも「なぜやるのか」「どうしたいのか」を考えるのは一人ひとり。それが自走する組織になっていくと思うんです。

――50人前後の経営者が皆さん悩むのが、どこまで自分が直接マネジメントすべきか、です。西口社長は社長直下のダイレクトマネジメントをやめられた。その経緯を教えてください。

西口社長:人事の相談役に「絶対にやめたほうがいい」と言われ、一度従ってみたんです。そうしたら「確かにやめてよかった」と。

振り返ると、社長が直接マネジメントする一番の弊害は、必要以上に承認欲求を満たしてしまうことでした。「社長に認められた」は、本人にとって私が思う以上に大きくて、それが将来の不平不満の温床になる。厳しくもされているのに、これだけ認められているのに、なぜ昇進しないのか、と。社長がメンバーに与える影響は、社長自身が思う10倍くらい大きいんだろうな、と感じます。

――寂しくなかったですか。直接指示したほうが早い、と思う場面もありそうです。

西口社長:寂しいですよ(笑)。でも、そこは我慢です。任せるマネージャーとの信頼関係と、連携のスピード感が大事だと思っています。

――30〜50人フェーズの意思決定や、情報の流れ方はどう設計されていますか。

西口社長:まだ過渡期ですが、原則は「承認者は一人であるべき」。それをいかに自分ではなく、マネージャーに権限委譲していけるか、です。

取り入れているのが「PACE」という役割分担の考え方で、P=リーダー、A=承認者、C=貢献(後見)者、E=実行者。肝はCです。権限を委ねても、私はモノによってC=貢献者として意見は言う。ただ最終の意思決定は担当に委ねる。会社の知見を全部テーブルに出したうえで、「決めるのは君だ」と明確にする。

「社長が言ったから、そっちにやらなきゃ」という空気を作らないことが、すごく大事なんです。

――今後は売上500億円規模、上場も視野に入れておられます。社員数のイメージはありますか。

西口社長:社員数は結果論でしかないと思っていますが、今はざっくり100億円で5〜60人。500億円のときは、だいたい200〜300人くらいかなと。消費財にフォーカスしながら、ブランドを増やしていく考えです。

――規模を追う中でも、貫いておられる軸はありますか。

西口社長:世間体に流されないこと、ですね。分かりやすい例で言うと、2年前にフル出社に切り替えました。世間からすると一定、逆行して見えると思います。実際、採用の難易度は上がりました。でも、「リモートが前提じゃないと嫌だ」という人とは、正直うちは合わない。やってよかったと本当に思っています。

――10年前、組織が伸び始めた頃のご自身に一言アドバイスするとしたら。

西口社長:「世間体に流されるのではなく、自分の信じた会社づくりをしたらいい」。経営者は横のつながりで他社の取り組みを聞いて、つい真似したくなる。でも業態もメンバーも違う。評判のいい福利厚生を取り入れても、大していいことはないんですよね。

――同じ30〜50人の壁に直面する経営者へは、どんな言葉を。

西口社長:同じです。変な「べき論」は忘れていい。世間の「あるべき」ではなく、自分にとって会社はこうあるべきだ、というものを貫く。そこに対しては自分にも厳しくいないといけない。世間のあるべきを忘れ、自分の“あるべき”を追い続ける。それが大事なんじゃないかなと思います。

――今日は本当にいいインプットをいただきました。ありがとうございました。

【メガネ社長の編集後記】

対談を伺いながら、僕は何度も深くうなずいていました。西口社長がこれまでの成長の過程で越えてこられた壁が、いままさにルヴィアが直面している壁と、驚くほどよく似ていたからです。人事コンサルタントとして日頃クライアントに助言してきたはずの論点で、自分自身もしっかりつまずいている。少しばかり、ばつの悪い時間でもありました。

事業のお話でまず唸らされたのは、「4回外した」という4〜5年を、ラッキーで終わった一勝の延長ではなく“進化”の材料に変えてこられたことでした。失敗はもう絶対ありき。そう前提を置けるかどうかで、次の一手の速さがまるで変わるのだと思います。

そして組織の話。とりわけ胸に刺さったのが、「与えれば与えるほど欲しがる」という一言でした。社員の満足度を上げようと要望に応え続けるほど、満足度はむしろ上がらない。良かれと思ってやっていたことが、静かに逆回転していく。かつての自分に、そして今まさに同じ規模で奮闘する多くの経営者に、これほど鋭く突き刺さる逆説もそうありません。

さらに、「任せる」ことのジレンマ。任せなければ、組織のキャパシティは社長ひとりのプレイングスキル以上には伸びていかない。頭では分かっていても、直接指示したほうが早いし、何より現場と離れるのは寂しい。西口社長ですら「寂しいですよ」と率直に漏らしておられました。その一言に、同じ立場の一人として深く共感しました。この寂しさを乗り越えられるかどうかが、50人の壁を越える最大のチャレンジなのだと思います。

見事だったのは、そこから西口社長が「従業員を見る」のをやめ、「自分が作りたい会社は何か」へと舵を大きく切られたことでした。相手に合わせにいくのをやめ、自社の“軸”を立てる。すると退職者が出たときの社内の空気までも、「動揺」から「相性だからしょうがないよね」という受容へと変わっていったといいます。10年をかけた、静かで確かな変化です。

マネージャーの適性を「承認欲求より進化欲」と言い切る潔さ。社長という存在の影響力を“自分が思う10倍”と見積もり、あえて現場から一歩引く抑制。そのどれもが、カリスマで引っ張るのではなく、仕組みで自走をつくるという一本の思想で貫かれていました。「上司の仕事は、決めることより考えさせること」。この一言に、西口社長の組織観が凝縮されているように思います。

世間の“べき論”ではなく、自分の“あるべき”を貫く。口にするのは簡単でも、10年やり切るのは容易ではありません。その難しさを走り抜けた方の言葉だからこそ、深く胸に残りました。同じ壁の前に立つ経営者にとって、これ以上ない道しるべになるはずです。

西口社長、本日は貴重なお話を本当にありがとうございました!

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