ピッチの中央で相手の攻撃を刈り取り、味方に配る。派手さではなく効き目で試合を動かす。それが、ジュビロ磐田の黄金期を中盤から支え、2度のワールドカップを戦った福西崇史さんだ。
愛媛の野球どころに生まれ、「プロの選手になりたいとも思っていなかった」高校生が、1995年にジュビロ磐田へ入団。その年のうちに、本職のフォワードから未経験のボランチへコンバートされた。勝ち続けるチームの空気、規律と自由の配分、そしてプロフェッショナルのあり方まで、現役時代と解説者としての視点を交えてオープンに語ってくれた。
第2回(後編)のテーマは、組織づくりである。福西さんは日本代表として2002年をトルシエ監督のもとで、2006年をジーコ監督のもとで戦った。規律と自由、両極端の代表チームを内側から経験した人である。だが「どちらが正しい」とは言わない。代わりに示されたのは、規律か自由かを選ぶ前に「何を成功とするか」を決めよ、という順序だった。30〜50人の規模で舵取りに悩む経営者に、そのまま効く回である。
トルシエは規律、ジーコは自由。先に決めるのは「何を成功とするか」
――第1回では、未経験のポジションを引き受けた原点と、年齢に関係なく言い合っていたジュビロ磐田の黄金期を伺いました。日本代表も、言い合う環境でしたか。
福西さん:言い合う環境ですね。ただ、監督次第でもあります。監督が言い合う環境を作るのなら言い合うべきだし、監督の規律でやっていくという環境であれば、言うべきことと言わないべきことがある。そこは判断しなきゃいけないと思います。
――2002年がトルシエさん、2006年がジーコさんです。規律を重視する監督と、ある程度その中で選手主体に言い合う監督で分けると、どちらがどちらでしょうか。
福西さん:僕の中では、トルシエさんは確実に規律。ジーコさんは確実に自由です。だから2002年と2006年では、チーム作りがまったく違ったということですよね。それは今、勉強になっています。やり方は監督のものなんですよ。組織でも上司がいて社長がいて、オーナーがいたりする。その人の考えのもとでどうやっていくか、ということです。
用語メモ|フィリップ・トルシエ=2002年日韓ワールドカップ時の日本代表監督。ジーコ=2006年ドイツワールドカップ時の日本代表監督で、現役時代はブラジル代表の中心選手として世界的に知られた。福西さんは、この2人の下で2度のワールドカップを戦っている。
――トルシエさんは、スタメンの発表も試合直前だったと伺います。選手のお立場としてはどうでしたか。
福西さん:良い面、悪い面ですよね。常に準備はしていても、心の準備はそこからです。ただ「常に準備しとけ」というのは、選手がおのずと思わなきゃいけないこと。みんなが準備している中で、「決められたら俺は出られない」という人が出てきたら、そこで勢いが止まってしまうといいますか、まとまらない可能性もある。これはもう本当に良し悪しじゃないですか。
用語メモ|スタメン=スターティングメンバー。試合開始時にピッチに立つ11人のこと。通常は試合の数日前までに選手へ伝えられ、選ばれた側も外れた側も、それを前提に準備を進める。
――今も、そういう監督はいらっしゃるんですか。
福西さん:いると思いますよ。わからないようにしている人もいるし、ある程度わかるけど、はっきりとは決めていない人もいる。その準備はしていく、というのは監督によってじゃないですか。
――どちらも一長一短だと思いますが、日本の国民性を考えると、どちらがフィットするとお考えですか。
福西さん:何を目的にするかによると思いますけど、日本の文化であれば、規律の方が結果は出やすいんじゃないですかね。でも一長一短ですよ。その代わり、自分たちで動くということがなくなるというか、自分たちで成長するということが少なくなってしまう。だから、どうしていきたいかによって、どっちがいいかは言えないと思うんです。

――「どうしていきたいか」が先にある、と。
福西さん:結果をすぐ出したいんだったら、規律で行った方が日本人には合うかもしれない。自分たちで話し合って自分たちで作っていきたいんだったら、そうした方が、その場に応じた結果はおのずとついてくる可能性はあるかなと思います。
――僕自身、今20数人の組織を経営していまして。もともとはかなり自由にやっていたのですが、自由にしているとベクトルのズレも出てきて、ある程度規律を引かないといけないな、と感じるようになりました。同じように30人から50人の規模で悩んでいる経営者はめちゃくちゃ多いと思うのですが、何が正解なのか、そこの調律の仕方が難しいと感じます。
福西さん:これはもう当たり前ですね。サッカーも正解がないんで。スポーツは結果で判断されるのが当たり前で、結果を出すためにどうするか。でも、それが育成につながったりしたら、育成の観点からは成功かもしれません。どこを成功とするかは、その視点次第ですよね。
――同じ結果でも、何を成功と定義するかで評価が変わる、と。
福西さん:今の指導もそうです。今の子どもたちに合った指導の仕方がある。子どもたちは今の時代を生きてきた考え方ですから、そこにギャップができているわけでしょう。この時代がめちゃくちゃ進んだというのもあるし、AIもそうですけど、知識は今めちゃくちゃあるんですよ。こっちは知識を得られなかった時代で、経験しかない。そこをうまく合わせながら組織を作るという点では、こっちも変化しなきゃいけないし、下の人たちも変化する準備をしておかなきゃいけない。結果、その組織をどう作るかは、みんなが考えなきゃいけない。これは一緒です。だからこそ、僕はサッカーの価値は高いと思っています。
リーダーシップは“やり方”。
無理をすれば、続かない
――理念や哲学という話でいうと、昔に比べてスポーツの世界でも、フィロソフィーやパーパスの濃度が高くなってきている印象があります。
福西さん:言うようになったからじゃないですか。もともとは絶対に必要なところでしょう。「言語化」ってみんなが言い始めているから、ただただ言語化なだけであって、もともとあるものですから。
――たしかに。現役時代、この選手・この監督はすごいリーダーシップがあったな、と感じた方はいらっしゃいますか。
福西さん:やり方じゃないですかね。ドゥンガのようなやり方のリーダーシップもあれば、中山さんのように背中で引っ張っていくリーダーシップの取り方もある。名波さんのように、グラウンドの中だけでなく外も含めてやっていく人もいる。そのやり方は、その人に合ったものだろうなと思います。長谷部さんもそうですけど、その環境にいたからそうなる、ということもありますし。それを無理してやっても、結局その人がやるものでもないですから。
――リーダーシップは誰しもが持っているものなのか、それともある程度は才能なのでしょうか。
福西さん:才能もあると思うし、みんなが持っている部分もあるんじゃないですか。むしろ逆もあるんじゃないですかね。その人が持っていなさそうというか、意識がないからこそ、その環境に立ったら出てくるものでもある。環境が人を変えると思いますよ。手っ取り早く結果を出す、成果を出すのであれば、その環境と、その人の持っているものが合わさった方がいいよね、ということですね。
――「リーダーシップがある人を置く」だけでは足りない、と。
福西さん:リーダーシップと周りの価値観がフィットするかどうかも含めてです。リーダーシップがあっても、周りがついてこなければ意味がない。いいリーダーシップも、はまらなければ意味がないということですし、リーダーシップ同士でぶつかって組織が壊れるんだったら、意味がありません。
一人一人が戦えた。それでも足りない
――2026年のワールドカップを、福西さんの目からご覧になって、日本代表はどうでしたか。
福西さん:これはもう中に入ってみないとわからないからこそ、それが監督の成果だったのか、選手たちの成果だったのかというのは判断がつかない部分ではあります。ただ、外から見るということで言うと、一人一人が戦える中で、チームのために戦ったなと思っています。だからこれが日本の良さだし、むしろ今回の課題でしょう。それでも足りないんだから、もっと個を尖らせなきゃだめですよね。そういう点では、今回それを築けた大会でした。
――協会は2050年に優勝するという目標を掲げていますね。
福西さん:だったら、それに向けて協会も指導者も選手も、それを支えている企業も、一般の親も、みんながやらないと難しいよね、ということです。今回のワールドカップも、無関心だった人が「代表は応援するよ」となった。それに気づいたことで「じゃあサッカー界を応援するよ」「Jリーグを応援するよ」「子供にさせたいな」となる。日本を広げないと、育たないんですよ。
用語メモ|日本サッカー協会(JFA)が2005年に発表した長期目標「JFA2005年宣言」を指す。2050年までにワールドカップを日本で開催し、日本代表がその大会で優勝することを掲げている。
――今回はスペインが優勝しました。何が優れていたとお考えですか。
福西さん:もちろんスキルは絶対的でしょう。それはもうみんなが分かっていて、日本もスキルが大事だよね、と。しかも交代枠が5人になったから、次に出てくる選手たちも超一流じゃないと勝てないわけです。スペインが何がすごいって、個の力と言われたフランスを、組織も踏まえて抑え込んだということですよね。じゃあ、なんでそんな組織ができるのかというと、もう子供の頃から同じことを一貫してやっているからです。
用語メモ|交代枠=1試合で交代できる選手の人数。長く3人だったが、国際サッカー評議会(IFAB)が2022年に5人を恒久ルール化した。先発11人だけでなく、控え選手の力量までが勝敗を直接左右するようになり、「層の厚さ」の重みが増している。
――日本も、組織づくりは得意なはずですが。
福西さん:組織を作るのは、日本はすごいトップレベルにするんですよ。それはつくづく今回も思いました。それでも、やっぱり足りない。だからスペインはもっと先を行っている。19歳が2人いるんですから。そう考えたら、日本も今、19歳がそれを意識して戦っている。世界大会に出て、意識を高めて、19歳の人たちがワールドカップに対応しているわけです。その人たちがどう感じて、今どう取り組むかで、先々がまた大きく変わっていく。それを協会が今回、環境として与えた。これがつながりですよ。
プロとは、選ばれ続けるために磨く人だ

――選手から解説者へ、そしていずれは指導者へ。ずっとプロでいらっしゃるんだな、と聞いていて思いました。プロ意識を持てていないビジネスパーソンは実際にすごく多いと思うのですが、何が違うのでしょうか。
福西さん:僕はそういう環境にいたからです。プロの環境にいなかった人が「プロですか」と言われたら、それは難しいことだと思います。でもプロであることは必要だと思うから、皆さんにも「こういう考えもありますよ」と伝えているんです。これが本当に正しいかどうかはわかりませんけど、プロの世界って、足の引っ張り合いじゃないんですよ。プロとして生きていくための切磋琢磨なんです。その人以上に行くために努力する。そのために技術を磨くんですよ。フリーのカメラマンは、この仕事がダメだったら次はないんですから。選ばれないんだから。サッカー選手も、一人ひとりが個人事業主なんです。だからこそ選ばれる。
――サラリーマンは、ある意味で守られていますね。
福西さん:守られているから、足を引っ張るのか、蹴落とすのかは知りませんけど、それがいい組織になるかは、また別の話ですよ。結果論だから。そういうのは、オーナーとか社長が変えていくんだったら、変えられる立場の人だから、続ければいいし、したくないというならしなくていいと思います。みんながより良くなるためにどうするか。だから議論しようよ、ということでしょうし、議論する環境を作るかどうかでしょう。
――最後に、福西さんご自身のことを伺います。今50歳になられて、5年後、10年後は何をしていたいですか。
福西さん:健康でいたいです。めちゃくちゃ思います。サッカーをしていた時も、健康じゃなくて走れなければサッカー選手じゃないからこそ、メンタルも含めてケアをしていました。辞めてからは走らなくなりましたけど、結局、健康じゃないと何もできない。より思うようになりました。疲れが取れない、眠れない、途中で目が覚める。体にいろいろ出てきますから。
――解説も、話すことも、健康あってこそですね。
福西さん:根本に戻っていくんですよ。今は量より質の話で、質を求めていきたい。でも、量をやっていないと質はわからないでしょう。若いうちは量をやりなよ、と。ある程度は自分の中でやってきたつもりだし、だからこそ質を求めていっている。でも、その質を追求するには、大前提として健康じゃないと何もできないよね、と考えている感じですね。
――今日は本当にいいインプットをいただきました。ありがとうございました。
【メガネ社長の編集後記】
対談の中で、福西さんは何度も「結果論ですから」と口にされました。人やチームは論理だけで決めつけられない。そのぶつかり合いである試合となれば、なおさらです。それは投げやりな諦めではなく、正解を先に決めつけない誠実さでした。だからこそ、勝とうが負けようが「何か課題は出てくるわけだから、その課題にどう取り組むか」という一言に、重みがありました。
ただ、正解がないからといって、自分が正しいと信じることを互いにぶつけ合うことから逃げてはいけない。そうも受け取りました。
黄金期のジュビロが他のチームと違ったのは、戦術ではなく「言い合っていたこと」だったと福西さんは言います。ならば発言しやすい制度を作ればいいのか、というと、そう単純ではありません。周囲が環境を整えることはもちろん必要ですが、それと同時に、自分が発言できるだけの信頼を獲得することも欠かせないのです。
福西さんご自身、プロ1年目は「言える立ち位置じゃなかった」と振り返っておられました。言う環境はあった。けれど実力が足りないから言えなかった。だから成長しようと思えた――。心理的安全性という言葉を仕事で扱う立場として、これは少し耳が痛くもあり、同時にひどく腹落ちする話でもありました。場は用意できる。けれど発言の重みまでは、こちらが配れるものではないのだと。
もうひとつ深く刺さったのが、自由と規律の話です。僕自身、20数人の組織をどう舵取りするかで揺れている真っ最中で、その悩みをそのままぶつけました。返ってきたのは「サッカーも正解はない」という言葉と、「どこを成功とするかは、その視点次第」という視点の転換でした。規律なら結果は出やすい。ただしその代わり、自分たちで動く力は失われていく。どちらを選ぶかではなく、何を成功と定義するのかが先にある。順番が逆だったな、と気づかされました。
50歳になられた今、福西さんが挙げた目標は「健康でいたい」でした。量をやってきたからこそ質を求められる。その質を追うには、健康が大前提だと。未経験のポジションを「わかりました」と引き受けた一年目の選手が、いま解説者として、そしていずれ指導者として、同じ姿勢のまま立っておられます。「自分の環境を自分でどう作るか」――ずっとプロでいる、というのは、こういうことなのだと思います。
福西さん、本日は貴重なお話を本当にありがとうございました!