「人が育たない」「チームとして機能しない」――組織づくりにおけるこうした課題は、多くの企業が直面している。では、人が主体的に動き、成長し続けるチームはどのように生まれるのか。そのヒントは、スポーツの現場にある。
今回お話を伺ったのは、プロサッカー選手として18年間プレーし、日本代表も経験した太田宏介氏。多様なチームと指導者のもとで得た経験から語られる組織論は、企業におけるマネジメントにも通じるものばかりだ。本インタビューでは、「人が育つチーム」をつくるための本質的な考え方をひも解く。
| 【プロフィール】 ・太田 宏介(おおた・こうすけ) 1987年7月23日生まれ、東京都町田市出身。 麻布大学附属渕野辺高校から2006年に横浜FCへ加入。 その後、清水エスパルス、FC東京、フィテッセ(オランダ)、名古屋グランパス、パース・グローリー(オーストラリア)でプレーし、2023年にFC町田ゼルビアで現役を引退。 Jリーグ通算348試合、日本代表として国際Aマッチ9試合に出場。「悪魔の左足」と称される高精度のキックを武器に、リーグ屈指の攻撃的サイドバックとして名を馳せた。 現在はFC町田ゼルビアの公式アンバサダーを務める傍ら、株式会社とととの代表取締役として、アスリートのセカンドキャリア支援や社会貢献活動など、ピッチ外でも多方面で活躍している。 |
| ・司会進行 Luvir Consulting株式会社 中川裕貴 代表取締役/CEO |
プロ入りは”華やか”ではなく、ギリギリのスタートだった

――今日はよろしくお願いします。まずはキャリアの出発点から伺いたいです。高校卒業後すぐにJリーグ入りされていますが、当時はどんな状況だったのでしょうか。
太田さん:よろしくお願いします。よく「高卒でそのままプロ入り」と聞くと順風満帆に見えるかもしれないんですけど、実際は全然そんなことなくて。高校3年の夏を過ぎても、なかなかオファーが来なかったんです。
――そうだったんですね。
太田さん:はい。プロになりたい気持ちはずっとありましたけど、現実的には難しいかもしれないと思っていました。経済的にも大学進学が簡単な状況ではなかったので、結構ギリギリの状態でしたね。最終的に横浜FCから声がかかったのが12月の1週目くらいで、それまでは本当に将来どうしよう、という不安が大きかったです。
――当時の横浜FCといえばそうそうたるメンバーがいらっしゃいましたよね。
はい。三浦知良さん(カズさん)が今の僕と同じ39歳くらいの時で、他にも城彰二さんや山口素弘さんなど、日本代表を背負ってきたレジェンドばかりでした。僕は一番の若手で技術も未熟でしたが、とにかく明るく振る舞っていたので、下手くそだと怒られながらも可愛がってもらえました。その時の先輩たちが今、サッカー協会の要職や指導者になっていて、引退した僕に仕事を振ってくれたりするんです。この「最初のチーム」で築いた繋がりは、僕の大きな財産ですね。
――ビジネスの世界でも「新卒で入った会社の同期や先輩との絆」は一生モノと言われますが、プロの世界も同じですね。
太田さん:本当にそう思います。社会に出て最初に「志の高い人」に囲まれることで、自分のマインドも大きく変わります。もし若手主体のチームに入っていたら、僕は同期との競争に埋もれていたかもしれません。なぜ30代後半まで生き残れる選手がいるのか、志の高さや振る舞いの違いを体感できた。その経験は、今の自分にもすごく生きています。
「強い組織」をつくる監督は、何が違うのか
――ここからは、組織づくりやマネジメントの話を伺いたいです。18年間で多くの監督の元でプレーされたと思いますが、「この人は違った」と感じた方はいますか。
太田さん:18年間で17人くらい監督を経験しているんですけど、その中でも明らかに違うと感じたのは、現役最後の1年を過ごしたFC町田ゼルビアの黒田監督ですね。高校サッカー(青森山田)で29年間指導されてきた方ですが、プロ1年目でJ2優勝、2年目にはJ1で優勝争い、3年目には天皇杯優勝という異次元の結果を出しています。
――他の監督と何が違ったのでしょうか。
太田さん:自分がやりたいこと、自分がやりたいサッカーを落とし込むのがものすごいうまい。日頃のコミュニケーションやミーティングでも設定した目標から逆算して「今何をすべきか」を言語化して明確に落とし込んでくれる。そして何よりも「誰一人忖度しないこと」です。
僕自身もそうでしたが、ベテランになってくると監督やスタッフから「足大丈夫か?怪我してないか?筋肉張ってないか?最後のセッション抜けていいよ」など気を使われることが多い。でもみんな同じピッチでそれぞれ戦っているのにそういう特別扱いに違和感があったんです。そんな中、黒田監督はベテラン選手にも怠慢なプレーをしていたらみんなの前で怒るし、何億円ももらっている外国人助っ人にも厳しいことを言えるし、平気でスタメンから外したりできる。競争が常にフラットなんですよ。そういう監督は、本当に少ないです。

――一見当たり前に聞こえますが、現実には難しいところなんですね。
太田さん:すごく難しいと思います。多くの監督は、主力選手やベテラン選手に対してどこかで気を遣うんですよ。でもその“気遣い”が周りから見ると“特別扱い”に見える。それが不満の種になって、「なんであの人は練習してないのに試合に出るの?」みたいな空気が生まれてしまう。組織は生き物なのでそういう小さな違和感が積み重なると崩れていくんです。 あとは自由と規律の塩梅が絶妙でしたね。
先ほどお伝えした通り、目標設定から逆算してやるべきことをチームに落とし込む。マネジメントが徹底されているように聞こえるが、実際にピッチに立った時は自由でしかなくて、最終的に求めていることをやって結果を出せばいい。フォワードだったら点を取ること、ディフェンスだったら失点ゼロに抑えること。中盤だったら誰よりもファイトすること。それぞれ違うんですけど。それまでの過程は基本的に自由なので、それに対して何も言われることもない。監督が示すスタイル、指針を忠実に守れる選手を集めてきているので「俺はそれはできない」って言ったり態度に出る選手は自然と浮いてくるし外れる。
ただ能力が高いだけではなく、会社のミッション、ビジョンに忠実に同じ目標に向かって戦える選手を集めるところ、監督の力量が試されています。
組織が語られるのは、結果より先に人間関係から
――チームがうまくいかなくなる時って、何が起きているのでしょうか。
太田さん:もちろん結果が出ないこともありますけど、実は人間関係の影響がすごく大きいです。試合中のミスを責めたり、言い返したり、そういうことがきっかけでギクシャクしていく。そこに不満を言うグループみたいなものができてしまうと、もう立て直しはかなり難しいです。
――うまくいかなくなったときにどうチームを立て直すか、これは監督の手腕が試されますね。
太田さん:はい、これがすごく難しい。自分のスタイルを常に曲げない監督、そもそもコミュニケーションが下手な監督、変に距離を置く監督はやっぱりうまくいかない。マネジメントに必要なのは言語化力。ちゃんと伝わる言葉に落として、パッションを伝える。これが本当に大事。
――それは企業組織にもかなり通じますね。プレイヤーとしては成績優秀でもマネージャーになった瞬間にパフォーマンスが上がらないケースがよくある。サッカーとかスポーツも一緒ですよね。
太田さん:本当にそう思います。結局、スポーツも企業も、人が集まって何かを成し遂げる組織という意味では一緒なので。僕自身、今いろんな経営者の方と話す機会がありますけど、「サッカーではこうでした」と話すと、結構みなさん頷いてくれるんですよ。自分では当たり前だと思っていたことが、組織づくりのヒントになるんだなと感じます。
キャプテンは”誰がやるか”だけでなく、”どう選ぶか”も重要
――そういう意味では監督だけではなくキャプテンの役割も重要ですよね。そもそもキャプテンはどうやって決めているのですか?
太田さん:黒田監督の場合、キャプテンの決め方も面白くて、普通は監督がキャプテンを指名するのですが、「キャプテン総選挙」という形で、全員の投票で決めていたんです。
――それは面白いですね。
太田さん:すごく良かったです。選手とスタッフ全員が投票して、その理由も書く。みんなで選んだキャプテンって、最初から信頼度が全然違うんですよ。「この人を助けたい」と思えるし、チームとしても“自分たちで選んだ”感覚がある。監督が一方的に指名するより、はるかに納得感があります。
――選ばれた側の意識も変わりそうです。
太田さん:変わります。僕も副キャプテンに選ばれたことがあるんですけど、「こう思ってもらえているんだ」と知るだけで、恥ずかしい行動はできなくなるし、もっと頑張ろうと思える。選び方ひとつで、リーダーの立ち方も周囲の支え方も変わるんですよね。
――スポーツにしてもビジネスにしても、人の想いや熱量、能力をどう引き出すかが本質。監督がプレーするわけではないし、ビジネスも一人で完結することはない。引き出すことがマネジメントの本質ですよね。非常に面白いです。
太田さん:そうですね。監督に限らずキャプテンもやっぱり言葉少なくて背中で見せるっていうタイプよりも、情熱家で常に太陽みたいな周りを照らせる存在で盛り上げてくれるキャプテンの方がチームの指揮は上がりますね。試合前の円陣でキャプテンがチームメイトに対して、今から戦う試合への思いを熱弁している映像ってよくSNSで上がってくるんですけど、あれぐらいパッションあるキャプテンがいいな、と思いますね。
実際にオランダでプレーしていた時、対戦相手のキャプテンとか見ていると、本当に誰よりも戦うし、まさに闘将みたいな。その人のキャプテンシーがチームに伝播して個々のパフォーマンスを引き上げていたと思います。

――そういう意味では数か月後にワールドカップを控えるサッカー日本代表の森保監督のリーダーシップはいかがでしょうか?
太田さん:森保さんは自身のリーダーシップスタイルやコミュニケーションスタイルの設計が本当にうまいですね。いまのサッカー日本代表は海外の第一線で戦う選手たちが多く、森保監督自身が現役の時よりもキャリア経験が豊富な選手ばかり。だからこそ選手の自主性を重んじて、個性を消さないマネジメントに徹して選手に任せるところは任せながらも最低限やるべきことは示す。森保監督のみでなく代表スタッフとも役割分担をしてチームで適切なコミュニケーションを取る。選手よりも何倍も情報を仕入れて時間をかけて分析して選手とコミュニケーションを取る。
このコミュニケーションスタイルが選手からの信頼を集め、選手たちから「森保さんのために」という想いを引き出し、チームをひとつにまとめていく。
さすが、2期連続で代表監督を任される方です。
【次回予告】
第2回では、太田氏が使命として掲げる「アスリートの価値を社会へ繋ぐ挑戦」を深掘りする。
引退をキャリアの終わりではなく、ビジネスマンとしての「成功の始まり」にするストーリーをどう量産していくのか。自身が抱き続けた不安を原動力に、太田氏が目指すセカンドキャリア支援の本質に迫る。
そして、子供たちが親の不安に縛られず、全力で好きなことに打ち込める環境づくりへ。スポーツとビジネスの枠を超えて、次世代へ手渡したい「社会のあり方」を語り合う。