プロスポーツ選手にいつか必ず訪れる「終わり」。 太田宏介氏とLuvirが見据えるのは、引退がキャリアの終わりではなく、そこからビジネスマンとしてさらに成功していくストーリーが生まれる未来だ。
第2回では、競技で培った「やり切る力」をどう社会へ繋いでいくのか。そして、子供たちが不安なく夢を追いかけられる環境づくりについて、その本質に迫る。
セカンドキャリア支援に取り組む理由

――現在はアスリートのセカンドキャリア支援にも取り組まれていますが、その原点はどこにありますか。
太田さん:ずっと不安があったからです。サッカー選手って基本的に一年契約なので、若い頃から「来年クビになるかもしれない」という感覚がずっとあるんですよ。僕自身、もしサッカーを続けられなくなったら、いい企業に就職して、ちゃんとキャリアを積みたいという思いがありました。
――現役中から準備をされていたんですね。
太田さん:そうですね。サッカー以外の時間で、異業種の方に会うことを意識していました。経営者の方とも積極的に会って、引退後に手を差し伸べてくれる人を一人でも多くつくりたいと思っていたんです。でも、そういう動きができない選手も多い。引退してから一般企業に行こうと思っても、社会との接点がないし、就活のやり方もわからない。履歴書も職務経歴書も作れない。そういう姿をたくさん見てきました。
――だからこそ、自分が橋渡し役になると。
太田さん:はい。Jリーグ選手OB会という引退した選手が入る組織があるのですが、今ここで副会長っていう立場にいて、キャリアの相談を現役選手から受けることがとても増えたんですよ。企業側から「アスリートを採用したい」という相談も増えています。自分はその両方に接点があるので、ここは自分の強みを生かせる領域だなと思っています。
――アスリートのセカンドキャリアは以前から課題として上がっていた認識ですが、どれぐらい改善されてきたのかは、僕の立場からはあまり実感がなく、実際はいかがですか?
太田さん:まさにそうです。体育会系エージェントが体育会系学生の就職を支援する、そういう会社は増えてきましたが、プロアスリートの就職を支援する会社はほとんどない。サッカー界においても、6年前まではJリーグキャリアサポートセンターという選手の就職支援組織があったのですが、これがなくなったので、実質的に今の Jリーガーやなでしこの選手たちは、引退した途端に、自発的に動いて企業を探すしかない。この現状に危機感を覚えています。

引退を「終わりの始まり」に。アスリートの価値を社会へ繋ぐ使命感
――プロスポーツ選手はいつくらいにセカンドキャリアを意識されるのですか?引退間近なのか、プロになってすぐなのか。
太田さん:まだまだ全体の中では多くはないんですけど、プロになってからセカンドキャリアについて考え出す選手は増えてきていますね。例えば最近で言うと簿記2級や宅建資格を持っている選手がいたりもします。そこまで至らなくてもビジネススクールに定期的に通っている選手もいたりします。自分でアクションを起こす優秀層が増えてきたのでそういった選手をより良い企業にご紹介したいと心がけています。
――個人的にもスポーツ業界は人間力が高い人が多いと思っています。一つのことに没入して、そこで成果を上げた人は「やり切る力」がある人が多く、異業界でも再現性もって活躍できる可能性が高い。ただ単にスキルや経験がない。ビジネスを知らないだけだと思うので、もう少し光を浴びる機会があってもいいのかなと思っています。
太田さん:アスリートってコミュニケーション能力あるし、ハキハキしてるし、挨拶もできるし、書類選考後の面接の通過率も非常に高いんですよ。だからこそ企業側にもそういった人材を届けたい。
――いいですね。アスリートと企業をつなぐ。これは太田さんの使命ですね。
太田さん:サッカー選手としてはなかなか結果が残せなかったけど、引退後のキャリアで、同期や先輩たちが「巻き返すんだ」という高いモチベーションで自身と向き合っている。そいう選手増えてきたので、そういう選手をしっかりとバックアップしたい。一方で全く準備をしていない選手たちも山ほどいます。引退後、キャリアに困ることが目に見えているので、彼らに目を向けた支援体制を整えることも非常に重要です。現役中からいろんなことを学べるプログラムであったり、研修を作ることも重要ですし、とはいえ各チームやJリーグ日本サッカー協会がそこまで手厚く選手のためにできないのは分かっているからこそ、自分が中心となって作りたいなと思っています。
――面白いですね。以前オリンピアンのキャリア支援を行っている方と話をしたのですが、現役の選手は、次のオリンピック出場を懸けて日々過ごしている中で、5年後 10年後のことなんて考えれない、という声を伺いました。やっぱりプロスポーツ選手なので、ゴールセットは言うまでもなく競技人生での成果。なかなかセカンドキャリアの話に耳を傾けられないのが、現実としてあるのかな、と感じました。
太田さん:どっちも正解だと思うんですよね。目の前の競技に 100パーセント注ぐことも、それをやりながらも次のキャリアに備えて準備しておくことも。こればかりは得意不得意あるのでどちらでもいいと思っています。ただいつかはアスリート人生に終わりが来るので1日でも早く準備であったり準備しなくても興味関心を持つことは重要だと思います。
――子供たちが夢を持てなくなる世界にはしたくないですね。
太田さん:子供たちは純粋にスポーツ選手になることに夢を持っていますが、どちらかというと親御さんですね。スポーツ選手になった後、つまりセカンドキャリアを心配して親が夢を追いかけることにストップかけちゃうことも結構あるらしいです。プロになっても結構大変だよ、引退した後はもっと大変だよみたいな。その後のためにも今は勉強して大学行った方がいいみたいな。
僕は、引退が「キャリアの終わり」ではなく、そこからビジネスマンとしてさらに成功していくストーリーをたくさん作りたいんです。それが、今の子供たちが夢を持ってスポーツに打ち込める環境作りにも繋がると思っています。

――子どもの自発性にストップをかけることは子を持つ一人の親としてもしたくないな、と思います。
太田さん:そうですね。やっぱり好きなことをとことんやることが大事だと思います。子供たちは本当に好きなことをやっている時間がスキル的にだけではなく人間的にも一番成長しますからね。
やらされている状態では、人は絶対に伸びない。これは子どもも大人も同じですよね。大人も一緒で、やっぱりやらされ感があると、絶対パフォーマンスに影響が出る。
――スポーツでもビジネスでも共通することですね。
太田さん:そう思います。自分でやりたいと思っている時が、一番成長する。逆に言えば、リーダーやマネージャーの役割って、その“自発性”をどう引き出すかなんじゃないかなと。黒田監督の話でもそうですけど、ただ管理するんじゃなくて、チームとしてやるべきことは明確にしながら、最後は選手が自分で結果を出しにいける状態をつくっていた。
ああいうマネジメントって、すごく本質的だと思います。スポーツもビジネスも、結局は「人の熱量をどう引き出すか」が全てですから。
――本日はありがとうございました。何よりも太田さんの言語化力の高さに驚かされました。太田さんはきっと素晴らしいセカンドキャリアを歩まれるのだろうな、と心から思いました。ぜひコンサルタントとしてのキャリアもご検討ください(笑)
太田さん:うれしいです!ありがとうございます(笑)
【メガネ社長の編集後記】
プロサッカー選手として18年、日本代表という頂(いただき)も経験された太田宏介さんとお話しして、太田さんの言葉から、これからのリーダーに不可欠な4つの要素が見えてきます。
- ゴール志向と逆算の思考
FC町田ゼルビアの黒田監督のエピソードにあったように、目標から逆算して「今何をすべきか」を明確に提示できること。この徹底したゴール志向が、組織の迷いを消すと感じました。
- 武器としての言語化力
太田さん自身がそうであるように、抽象的な情熱を「伝わる言葉」に落とし込む力。これがなければ、多様な個性が集まるチームを一つに束ねることはできません。
- 伝播するパッション
円陣でチームを鼓舞する「太陽」のような熱量。論理だけでなく、最後に人を動かすのはリーダーの「この人のために」と思わせるパッションなのだと、太田さんの表情を見て確信しました。
- 自発性を促す「引き出し方」
「キャプテン総選挙」の例にあるように、単なる指示ではなく、メンバーが自ら主体的に動きたくなる仕組みを作ること。管理するのではなく、個々の熱量を最大化させる「引き出し方」こそがマネジメントの本質です。
また、対談の後半で伺ったセカンドキャリアへのお話は、ビジネス界にとっても非常に意義深いものでした。
アスリートが持つ「一つのことに没入し、やり切る力」は、ビジネスの現場でも大きな武器になります。しかし、現状はそのポテンシャルが十分に発揮される場との接点が不足しています。
太田さんが取り組もうとしているのは、単なる「就職支援」ではありません。引退がキャリアの終わりではなく、ビジネスマンとしての「成功の始まり」になるストーリーを量産すること。それが結果として、子供たちが親の不安に縛られず、全力で夢を追いかけられる環境づくりに繋がるという視点に、深く感銘を受けました。
「やらされている状態では、人は絶対に伸びない」。
この真理を胸に、私自身もメンバーが自発的に輝ける組織を目指していきたいと思います。
太田さん、素晴らしい時間をありがとうございました!