高齢化が進む日本では、相続問題が増加傾向にある。最新の司法統計によると、家庭裁判所に持ち込まれた相続争いの件数は15,379件(最高裁判所事務総局発表 令和6年司法統計年報 3.家事編)。中でもトラブルになりやすいのが、不動産の相続だ。権利を誰にどう分配するのか。住まなくなった家をどう処分するのか。家族・親戚間での折り合いがつかず、未解決の相続が長引いて精神をすり減らしている人は少なくない。
その痛みごと不動産を買い取り、専門知識を駆使したリセールで多くの人を助けるプロフェッショナル・カンパニーがある。株式会社ネクスウィルだ。
売買難易度の高い「訳あり不動産」のビジネスはどのように成り立っているのか。設立8年目のベンチャー企業が切り開く不動産業界の未来とは――。
Luvir Consulting代表・中川裕貴がインタビュアーとなり、丸岡智幸社長にその異色のビジネスモデルや今後の展望について伺っていく。
「ビジネスにならないから断る」。
資本主義社会では至極当たり前の判断だろう。しかし、断られた人の痛みはそのまま続いていく。不動産の世界でも、その現象は起こっていた。売れなければ、買えなければ、取引はそこで終わってしまう。
丸岡社長は考えていた。本当に売買は不可能なのか。「売る」「買う」の他にできることはないのか。「売りたくても売れない不動産をゼロにする」。その思いを胸に取り組んだ丸岡社長の挑戦は、市場で見て見ぬふりをされてきた「訳あり不動産」に希望の光をもたらすこととなる。第1回(前編)では、そのビジネスモデルと事業開発の裏側に迫る。

●丸岡智幸氏 プロフィール
1983年生まれ、茨城県日立市出身。東電学園高等部を卒業し、東京電力で約10年勤務。その後、一部上場不動産会社で投資用アパートの販売業務などに従事する。2019年、当時の同僚と共に株式会社ネクスウィルを独立創業。2020年10月に「訳あり不動産」の買い取りに特化した不動産買い取り事業を開始。訳あり不動産の買い取り事業「ワケガイ」、空き家や訳あり不動産を個人間売買できるオンラインマッチングサイト「URI・KAI」の他、不動産に関するオウンドメディアの運営を行う。著書に『拝啓 売りたいのに家が売れません』(自由国民社)。
●中川裕貴 プロフィール
Luvir Consulting株式会社 代表取締役 / CEO
不動産に紐づく「ワケ」ごと引き受ける
――本日はよろしくお願いします。ネクスウィル社は、業界の中でもニッチな「訳あり不動産」を扱っていると伺いました。具体的にはどんな不動産なのでしょうか?改めて、御社の事業内容を伺いたいです。
丸岡社長:ありがとうございます。私たちが扱う「訳あり不動産」は、何らかの理由があって全国の市場に流通しにくい物件・不動産のことを指します。例えば、相続の際に生じた権利関係のこじれや、複数人の共有持分になっていて処分の方針が合わないなどの問題を抱えていて売却が難しい物件。その他、古くから貸している借地や契約条件も分からない借地(底地)、建築基準法の要件を満たせず再建築不可となっている物件などがあります。
当社が運営するサービス「ワケガイ」は、そのような一般流通しにくい物件を買い取り、抱える問題を解決した上でリセールをおこなっています。
相続したものの住んでいない実家など、近年急速に増加している空き家物件も、私たちの買取範囲です。家は人が住んでいないとどんどん朽ちていきますから、管理も大変ですし、放置すれば放置するほど売れなくなっていく。売りたくても残置物の処理などの課題があって、一般の不動産会社に相談しても断られるケースが多いです。私たちは自治体や行政などと連携し、そのような空き家の売買や利活用提案をしています。
――抱える問題ごと買い取り、市場を循環させているのですね。「売れない」「利活用できない」という方々にとって大きな救いになる事業だと感じます。
従来通りでは救えない、
「大相続時代」の痛みを知って
――丸岡社長は、もともと不動産関係に精通していたのですか?
丸岡社長:いえ、28歳の時、まったく別の業界から飛び込んだんです。ファーストキャリアは電力会社で、高校卒業から10年ほど働いていました。30歳という節目が近づいてきて、「このまま同じ会社にい続けていいんだろうか」と自問自答した時期があり、思い切って外の世界に出てみようと転職したのが不動産業界でした。そこから8年、転職後の会社で投資用不動産の販売を経験して、当時の仲間と共に当社を設立しました。

――異なる業界からチャレンジして、知識を蓄積していったと。訳あり不動産にフォーカスしたきっかけは?
丸岡社長:投資用不動産の会社としてスタートしてしばらく経った頃、顧問弁護士から「相続で揉める案件が年々増えてきている」という話を聞きました。ひとつの不動産を3人、4人で共有して、売りたい・売りたくないの意見が合わずに揉めてしまっているケースによく出会うと。家族で争ったり、会ったこともない親戚と込み入った話をしないといけなかったり、地獄のような状態になることもあるんだそうです。
今は「大相続時代」と言われていて、相続のスパンが短くなってきています。例えば90代の親から相続するのが70代の子ということがざらにあって、その70代の子もすぐ相続が迫ってきますし、子がいなければ叔父や叔母など親戚へ……ということになる。相続する件数・回数が多くなって、相続の揉めごとも、揉めごとが絡む不動産もどんどん増えています。
そんな状況を知って、考えました。不動産の仲介業は世の中に溢れているけれど、揉めごと・困りごとの解決からやっている会社はほとんどない。難しい挑戦だとは思いましたが、この問題の解決は社会的意義があると感じました。事業的にも、何か当社だけの強みを持つ必要があると考えていたところでしたから、思い切ってやってみることにしたんです。
――サービス開始当初の反響はいかがでしたか?
丸岡社長:ランディングページを公開してすぐ、意外なほど反響がありました。問題を抱えて苦しんでいる方が多くいることを感じましたね。権利関係の整理相談から始まり、引き取り手のない空き家など、さまざまな訳あり不動産のご相談がきて。ひとつひとつ向き合っていくうちに、地元の不動産屋さんや大手の仲介会社さんに断られるような相談が次々入ってくるようになりました。事業開始から2~3年で、訳あり不動産売買の売上が、設立時の柱であった投資用不動産を上回り[1] メインの事業になりました。ご相談をお受けする度に知見を増やし、これまで1,000件以上の買取契約を成立させています。
「どんな不動産にもニーズはある」という確信
――ニーズの大きさに驚きました。ただ、その後の売却が難しいイメージがあるのですが、買い手のニーズはあるのでしょうか。
丸岡社長:「訳あり」のままだと確かに難しいですが、抱えている問題を解決すれば、買い手はたくさんいます。ですから、問題を解決した状態でいくらで取引できるかを見通すのが肝ですね。その値付けを誤ると当然ビジネスとして成立しません。相談を受けた時点での不動産の状態だけで判断するのではなく、「どういう状態なら、いくらで、どんな買い手に求められそうか」を見極めていく。その値付けのノウハウや、売却先の投資家さまとの繋がりが蓄積されていることが、私たちの強みです。
ニーズがないとされる空き家でも、「一万円だったら欲しい」というような買い手はいるはずなんです。ただ、そういう物件は市場に出ないですよね。買い取ったままの物件を売る不動産会社だと、一万円の物件を取引しても商売にならないから。同じ手間をかけるなら、大きな利益が出る数千万の物件を扱いたいのは当然のことなので、多くの会社は断ってしまう。ニーズがあっても取りこぼされてしまうんです。

――そういったケースも御社は扱うわけですよね。どうやってビジネスとして成り立たせていますか?
丸岡社長:利活用できる状態にする費用を見積もって、ごく少額で買い取るか、無料・有償での引き取りをおこなっています。少額でも引き取り時より上回って売れれば、利益は生まれます。「ボロボロでもタダならもらうよ」という人がいたり、当社が売主から解体費用をいただいて、解体した状態なら買いたいという人がいたりしますから、ちゃんとビジネスとして成り立っています。
――無償・有償で家を引き取るという取引もされているんですね!しかし「売りたい」と思って相談にくるわけですから、納得しない売主もいそうな気がしますが……。
丸岡社長:いらっしゃいますね。「建てた時は数千万だったのに」「こちらの最低金額で買い取ってもらえないなら難しい」と。その感情は自然だと思います。加えて、他の不動産会社では扱われない物件であることが多いですから、お客様自身で金額の相場を見極める情報が得られない状況なんですよね。私たちとしては物件の状態をみて相場を提示しているのですが、売り手の想像する相場と乖離が生まれることがよくあります。
気持ちの整理が必要ですから、そこは時間をかけていくしかないです。実際、「取引しない」となったお客様で、いろいろ他の会社をあたってみてから「どこも買い取ってもらえなかった」「有償でも引き取ってもらえた方がいいと思った」とご連絡をくださるケースは多いです。
――それほど、訳あり不動産の取引は断られるものなのですね。
丸岡社長:厳しいと思いますね。断られて売れないままだと継続して売主が管理せざるを得ないので、管理費用もかかるし固定資産税もかかる。売主の住居から離れたところにある物件であれば、管理の度に旅費交通費がかかりますし、草木が伸びてくれば隣地や行政からのクレームにつながるなど、経済的にも精神的にも負担が増える場合がほとんどです。それが身に染みている方はお金を払ってでも引き取ってもらいたいと考えるでしょうし、私たちはその負担をまるごと引き取れるので、肩の荷が下りたと感じていただけていると思います。
買取できない不動産にも未来を

――ニッチな領域ですが、こういった訳あり不動産を取り扱う会社は他にもありますか?
丸岡社長:ありますね。今、どんどん増えてきていると思いますよ。ただ、多くの会社は買い取った不動産をリフォームして、住居用としてリセールしています。当然住居用としての価値にフォーカスしますから、駅からの距離や周辺の利便性重視で買取をします。そうなると買えない不動産も多いんですよね。体感としては100件相談がきたら10件買えるかどうかだと思います。私たちは投資用不動産としての出口があり、金額が折り合えば買えない物件はない。ターゲットの違いで差別化ができていると考えています。
――そんな御社でも買えない物件は稀にあると想像しますが、買えない場合は何か他の提案をされているのでしょうか。
丸岡社長:おっしゃる通り、農地つきや山林のみなど、利活用が難しいものは当社でもお断りするケースがあります。その場合は、当社が運営している「ウリカイ」という空き家マッチングフォームへの掲載などで、CtoCでの取引機会が生まれるようなご提案をしています。
私たちが目指すのは、市場に出ない物件を再流通させて、利活用までサポートすること。情報が世に出ることで売買のきっかけが生まれますから、買取ができなくてもできる限り、売り手と買い手のマッチング機会を提供したいと思っています。
――御社が掲げる「売りたくても売れない不動産をゼロにする」というビジョンへの強い思いを感じますね。
【次回予告】
市場に変革をもたらすネクスウィル社。その志は社内メンバーひとりひとりに根付き、自治体との連携、地域を盛り上げるスポーツチームとのコラボレーションにつながっていく。
企業のビジョン実現、社会問題解決に必要不可欠な「連携」。第2回(後編)では、ネクスウィル社の内部と外部の連携に目を向け、その強さが拓く現代社会の未来を垣間見る。