2026.07.10 ニュース

企業×スポーツ×行政。プロの連携で輝く「空き家」と地域社会

企業×スポーツ×行政。プロの連携で輝く「空き家」と地域社会

高齢化が進む日本では、相続問題が増加傾向にある。最新の司法統計によると、家庭裁判所に持ち込まれた相続争いの件数は15,379件(最高裁判所事務総局発表 令和6年司法統計年報 3.家事編)。中でもトラブルになりやすいのが、不動産の相続だ。権利を誰にどう分配するのか。住まなくなった家をどう処分するのか。家族・親戚間での折り合いがつかず、未解決の相続が長引いて精神をすり減らしている人は少なくない。

その痛みごと不動産を買い取り、専門知識を駆使したリセールで多くの人を助けるプロフェッショナル・カンパニーがある。株式会社ネクスウィルだ。

売買難易度の高い「訳あり不動産」のビジネスはどのように成り立っているのか。設立8年目のベンチャー企業が切り開く不動産業界の未来とは――。

Luvir Consulting代表・中川裕貴がインタビュアーとなり、丸岡智幸社長にその異色のビジネスモデルや今後の展望について伺っていく。

第2回(後編)では、全国の「訳あり不動産」を市場に再流通させるプロフェッショナル集団・ネクスウィル社の組織内部について、そして社会課題解決を共に目指す社外パートナーとの連携に迫る。

――vol.1では、「訳あり不動産」売買のビジネスモデル、事業開発のきっかけについて深くお話を伺ってきました。独自の強みを活かした事業展開は順風満帆のようにみえますが、経営面で苦しい場面などはありましたか?

丸岡社長:「訳あり不動産」という領域に参入してから数年は、資金繰りの面で苦しい状況が続いていました。仕入れてすぐ市場に出せるわけではなく、不動産に紐づいている「訳」を取り除く段階がありますから、仕入れにかけた資金を回収するまでには1年~数年かかります。もともと軸としていた投資用不動産の利益分を駆使して上手くやりくりすることで、全体の売上や利益は右肩上がりにできていましたが、足元のキャッシュがない状況に耐える期間は長かったです。

私も創業メンバーもずっと投資用不動産の営業をしてきましたから、未経験の領域でどうやって会社を成り立たせていこうかと、後から入社してくれたメンバーの力を借りながら皆で頭を悩ませる日々でした。あの時期の試行錯誤のおかげで、今は全国への支店展開を進められるくらい余裕を持てる状態になっています。

――創業メンバーと後に加入したメンバー、各々が壁を作らず、全員で事業をつくってきたようすが目に浮かびます。弊社は人事コンサルティングを生業にしているので、組織構造や文化のことも気になるのですが、今御社はどのような組織フェーズにありますか?

丸岡社長:空き家の買取希望が年々増えていること、自治体への社員派遣ニーズが大きくなっていることなどを鑑みて、去年から今年にかけて急速に組織拡大しています。メンバー数は68名になりました。

――入社する方は、やはり不動産業界のバックグラウンドの方が多いですか?

丸岡社長:もちろん同業界出身者もいますが、まったく異なる業界からの入社も多いです。元警察官、元消防士……ジムのインストラクターから転職したメンバーもいます。新卒の採用も行っていますから、未経験からキャッチアップする人のほうが多いんじゃないかな。私自身も未経験のところからやってきましたので、前提知識がなくても、本人のやる気次第でプロフェッショナルになれるという考えで採用しています。大切なのは素直さ。今の自分に足りないところを素直に受け止めて、身に着けようとする姿勢がメンバーには共通してあります。

――ニッチな領域だからこそ、不動産経験者でもさらなる知識の習得が求められますよね。「素直であること」は御社のサービスクオリティの要になっているのではないかと感じます。そんなメンバーの皆さんが、御社を見つけて「ここで働きたい」と思う理由は何だと思いますか?

丸岡社長:ありがたいことに様々なメディアに取り上げていただいていますので、その露出で私や当社を知って、思いに共感して入社してくださる流れが多いですね。メディア露出がほとんどなかった頃は、入ってから合わないところが見えてきて辞めてしまう方がちらほらいたのですが、触れてもらえる情報が増えたことでそういった離脱も少なくなってきました。 集まったメンバーはみんな、自分の軸となる部分がしっかりあって、いい意味で自責思考です。自分でちゃんと考える。自分の領域は自分で責任を持つ。ひとりひとりがプロとして仕事をしていることが共通認識としてあるので、監視し合う必要がなくて、いい距離感を保ったコミュニケーションが生まれていると感じますね。

――組織規模が大きくなると、社長とメンバーの距離が遠くなることはよくあることだと思いますが、丸岡社長は経営陣以外のメンバーとコミュニケーションを取る機会はありますか?

丸岡社長:ありますよ。仕事以外で飲みにいくこともありますし。二次会には行かないようにしていますけどね。何か問題が起きるのは絶対二次会じゃないですか(笑)。仕事でも仕事以外でも、踏み込みすぎないようにというか、余計なことを言わないようには気をつけています。信じて任せる。私ひとりでは把握しきれないところが、組織が大きくなればなるほど生まれていきますからね。

――「任せる」のマネジメントスタイルは、設立当初からですか?

丸岡社長:いえ、最初の頃は一から十まで、私が関わっていました。ディレクションも外注先とのコミュニケーションも自分でやっていて。任せられる人が増えてきてから、今のマネジメントスタイルに切り替えた形です。今は「こういうことをやりたい」という構想だけを伝えて、各メンバーが具現化していってくれています。

――「任せられる」と確信できる状態になるのは難しいことだと思います。手が離れることへの不安はありませんでしたか。

丸岡社長:「任せる怖さ」はありましたね、最初は。でも結局私がすべてをみることはできないですから。私は社長という立場にいますが、特別秀でているものはなくて、会社設立自体も複数人の創業メンバーと協力してやってきました。そういう自認なので、任せるものはちゃんと任せたほうがいいと思っています。中途半端に関わらない。権限を委譲したら、プロジェクトグループからは抜けるし、会議にも出ないと徹底しています。報告は受けますし、危険なときはちゃんと伝えますが、基本的には信頼して任せています。

私は正直、トップダウンのリーダー像は理想ではないんです。ボトムアップしながらやっていきたい。そういう体制を生むために、私自身が傲慢になってはいけない。謙虚でいることを大切にしたいと思っています。

――社内のリーダーに求めることも「謙虚さ」でしょうか。

丸岡社長:そうですね。そこがベースになっていると思います。実際に伝えている言葉は三つです。「偉ぶらずチームのために」「自責でいる」「誠実に、行動と言動を一致させる」。

リーダーはサーバントマインド、つまり「チームに仕える」という意識が重要だと思うんです。自分がよければいいという考え方はリーダーにはふさわしくない。常に誰かのために、チームを軸に動くことが必要です。一方で、返ってきた結果については自責で捉える。他人のせいにする人には、誰もついてこないと思っています。言動と行動が一致しない人にもついていきたくないですよね。「こういってるのに自分で全然やらない」と思われるリーダーに信用はありません。プレイヤーであれば成果が出ていればOKなところがあるかもしれませんが、リーダーとしては不足していると思います。

――信頼されるリーダーの三原則。私も背筋が伸びる思いです。実際に社内のリーダーたちは体現できていると感じますか?

丸岡社長:うまくやってくれていると思いますね。もちろん全部が全部うまくいっているのかと言われるとそうでないところもありますが、そこは都度改善すれば何の問題もない。私も含めて、できていない部分を指摘し合える関係性が生まれていると思います。

社内のリーダーやメンバーたちが仕事を持って行ってくれるので、私は会社全体の方向性や外部パートナーとの連携などに力を使うことができています。

――外部との連携といえば、御社はサッカーJリーグのJ1で活躍する茨城県の水戸ホーリーホックと協業していらっしゃいますね。一見まったく重なる部分がないようにみえますが、どんなきっかけでコラボレーションが生まれましたか?

丸岡社長:茨城県は私の故郷で、私自身、幼い頃からサッカーをしてきました。その時のチームメイトが水戸ホーリーホックのスタッフとして活動していて、ご縁がつながった形です。相続問題や空き家問題は全国で起こっていることで、地域の困りごとでもありますから、地域に根ざした団体や自治体との連携はずっと目指していました。故郷の力になりたいという気持ちも強く持っていましたから、理想的な流れでした。

立場としてはいちスポンサーですが、ただこちらが活動を支援する関係ではなく、ちょっと特殊な関係性です。

――特殊、といいますと?

丸岡社長:水戸ホーリーホックが、空き家相談の窓口になっているんです。クラブの事務所に相談窓口を設置したり、ホームスタジアムで試合をする際に空き家相談ブースを設けたりと、地域の方との接点を作ってくれています。

水戸ホーリーホックは、オーナー企業を持たず、地域で育ってきたチームです。これはJリーグでもかなり珍しいことで、地域の皆さんとの信頼と絆は一際強いと感じています。そんな水戸ホーリーホックが窓口であることで、安心して相談にこれるという方は多いです。

――応援しているスポーツチームが窓口になっていると、確かに相談しやすいかもしれません。空き家相談は、地域の問題として自治体や行政が中心となって対応しているイメージがありますが、茨城県の自治体との連携も行っているのでしょうか?

丸岡社長:県としても空き家利活用には悩んでいるとのことでお話はしているのですが、私たちが茨城県外に会社を構えていることもあり、地域の業者の皆さんとのハレーションが起きることが懸念されるため、直接的な連携はまだ叶っていません。ただ、水戸ホーリーホックは茨城県と空き家活用の連携協定を結んでいて、その形では今のところハレーションは起きていないです。直接連携できることが望ましいですが、地域の混乱を招かないことは大切ですから、今の立ち位置で、私たちは水戸ホーリーホックの後ろから支えるように地域貢献していくのがいいのではないかと思っています。

今、茨城県には空き家が196,200戸も存在しています。そのうち管理されていない空き家は93,000戸と年々増加しており、増加率も0.8%と全国平均を上回り高い水準にあります。その問題解決のひとつの窓口として成立できているのは地域にとっては大きな意義があると信じています。

――社長の故郷への思い、強く伝わってきました。茨城県以外との連携はいかがでしょう。御社は全国を対象に売買をされていますよね。

丸岡社長:全国では、岩手県紫波町との連携協定から始まり、24の自治体との連携が叶っています。スポーツチームとの連携も進んでおりまして、先ほどお話しした水戸ホーリーホックに加え、関西が拠点のFC大阪、青森八戸のアイスホッケーチーム・東北フリーブレイズ、三人制バスケットボールリーグの3×3.EXE PREMIER(スリーエックススリーエグゼ プレミア)、沖縄・浦添を拠点とする女子サッカークラブ・琉球DEIGOS(デイゴス)とも連携協定を結ばせていただきました。

――この広がりは、どんな未来に向かっているのでしょうか。

丸岡社長:空き家を含む「訳あり不動産」の可能性がさらに広がる未来、でしょうか。スポーツチームが相談のきっかけを広げ、行政や自治体と共に私たちが利活用を促していけば、「売る」「買う」のその後の「利活用」まで浸透させることが可能になると考えています。例えば、買い取った空き家を改装してスポーツチームの練習拠点にしたり、地域活性化に役立つ民泊施設にしたり。

買い手の方も、今は投資目的で買う方が多い印象で、その不動産自体の活用までは手つかずなケースがほとんどです。しかし、空き家は「安く買える」ということ以上の価値を秘めています。私たちがリフォームや、セカンドハウスとしての活用方法、貸し方のアイデアなどのご提案に力を入れていけば、空き家は生き返り、本来の価値を発揮できる可能性が高まると確信しています。

売り手と買い手をつなぐことにとどまらず、様々な利活用の事例を増やしていきたい。そして、空き家利活用の文化を日本に根付かせていく。そんな未来を目指して、私たちはこれからも業種問わず様々な方々とタッグを組んでいきたいと思っています。

――市場が変わり、社会が変わる。社会課題となっている訳あり不動産が、社会にとってプラスの価値を持っていく未来が楽しみです。本日はありがとうございました!

【メガネ社長の編集後記】

どの領域で戦うか。ビジネスで要となる最初の選択です。多くの経営者が感じていることと思いますが、この選択に会社の存続と拡大は大きく左右されます。その重要性が、今回の丸岡社長のお話では際立っていました。

マーケットの中のマーケットを見出す先見性。そしてそこでビジネスを作り切る、やり切る胆力。丸岡社長ご自身は「自分には特別秀でているものはない」とおっしゃっていましたが、同じ経営者として、深い洞察とパワーに感銘を受けました。

丸岡社長の謙虚さは、「サーバントリーダーシップ」の本質と見事にリンクしていると感じます。チームに仕え、任せて伸ばすマネジメントスタイル。傾聴・支援・環境づくりを中心に、上意下達ではなく、メンバー主体で信頼関係を築き、自発性を引き出していく。組織を率いる姿勢として深く共感しています。そこに至るまでの怖さや、難しさも含めて。

以前の丸岡社長の姿は私自身の道のりと重なります。Luvir Consulting設立当初は細かく細かく、1から10まで指示を出していました。しかし本来やるべき「経営」にフォーカスできない苦しさがあり、メンバーの成長にも繋がらなかった。指示による間違いのなさより、「やらされ感」によるモチベーションの低下が目立っていたと振り返っています。

「任せる」という怖さ。そこを乗り越えて、サーバントにコミットした時、自分が想像していた以上に前向きに、意欲的に仕事をしてくれるメンバーの姿がそこにはありました。

一歩間違えば、「やりたい放題でわがままな組織」になるリスクをはらむマネジメントスタイルですが、そのリスクを取り払えるのも社長だと感じています。北極星を示すこと。各人のコミットメントを明確にすること。奉仕(サーバント)する対象は、チームを超えてクライアントの存在であること。それを改めて心に刻む対談となりました。

リーダーシップとはなんたるか。日々迷いながら向き合っている経営者すべての導きとなるようなお話に、衿を正す時間でした。