理想を掲げるだけでは変わらない
第3回では、両社が現場で直面してきた“リアルな壁”とその限界を、企業側・学生側・組織が抱える構造的課題という3つのレイヤーで掘り下げる。
理念と現実のあいだで何が立ち上がってきたのか。最終回のテーマ「共創と未来」へ向けた、その伏線となる回だ。
“自社の課題”を言語化できていない企業は……
山本:今回は「実践と限界」というテーマです。
糸井さんは、企業側の課題はどこにあると感じていますか?
糸井:いちばんは、クライアント自身が“自社の課題”を言語化できていないことです。
担当者の理解度にはかなりばらつきがあって、そもそも質問に答えられない、業界知識が薄い、自社サービスの説明すら難しい……というケースも。
PROJECT anyでは学生に企業の課題解決プロジェクトを提供していますが、学生にはそこも含めてリアルな部分として体験してほしいんです。
最初にプロジェクトが開始する背景や目的、目標を設定したうえで、学生自らが企業担当者への質問を通じて担当者のインサイトを拾い上げていく作業を盛り込んでいます。学生は担当者にヒアリングしながら仮説を立て、課題を抽出し、解決策をつくる。そこで良い企画が提案できれば、実際のプロジェクトが動き始める——そんな流れで進めています。
奥地:経験がある人は深いニーズを拾えるけれど、表面情報しか出てこないと学生は次の一手が読めなくなる。限界が出やすい構造です。
山本:その話は、コンサルファームでもメンバーとマネージャーの違いとして顕著に出るところですね。
奥地:そう。深掘りできる人はマネージャークラスになっていくからね。
逆に、目の前のインプットを表層でしか受け取れないとなると、クライアントの本質的な課題に迫れない。ここが“1段上にいけるかどうか”の分岐点なんですよ。
奥地:糸井さんの話に戻ると、そもそもクライアントが課題を言語化できないのは、組織の構造として「課題を考える時間」や「対話の文化」が育っていないケースが多いのかもしれません。
評価制度が短期の成果だけを見ていると、根本原因に向き合う余白が生まれない。だからプロジェクトに入った瞬間、学生のほうがむしろ本質的な問いを投げてくることがあるのでしょう。

学業・バイト・プロジェクト
20代が抱える“時間の壁”
山本:では、学生側の壁は?
糸井:PROJECT anyがクライアント企業と行う共創プロジェクトは、各人がプロジェクトを通じて達成したい目的・目標を持ち参画します。こういった人材は、PROJECT anyのプロジェクト以外にも、自身でプロジェクトや学生団体を運営していたり、学業に励んだり、積極的にインターン・アルバイトをしていることが多いため、スケジュールがかなりタイトです。
一方で約半年のプロジェクトとなると、進捗が生まれづらい時期も訪れるため、そこでモチベーションやコミットメントにばらつきが出てきます。そうなると、「自分は何のためにやっているんだろう?」と停滞を感じたり目的を見失う人が出てきます。
私達としては、環境を言い訳にしてフォロワーになるのではなく、そこで環境を創る側になってほしいので、プロジェクトに参画している目的を立ち返れるように1on1を提供したり、月ごとに大まかな山場をつくるとか、同じテーマで複数チームを走らせたりなどしながら、半年間のプロジェクトを走り切れる仕掛けを入れています。
もう1つの壁は「解像度のギャップ」。社会人と学生の“見えている細かさ”が違うため、そこを埋めるために「ペルソナ」ではなく実際に顔が思い浮かぶ「N1」へのデプスインタビューの実施を推奨したり、携わっている領域に関するディベートを通じて競いながらインプットしてもらう仕掛けを作ったりしています。結果として、学生の理解の質が大きく上がってきた実感があります。

コンサルティングの“介入の限界”問題
山本:コンサルティングの現場では、どんな壁や限界が見えたのでしょう。
奥地:これはコンサルの世界“あるある”なんですが、こちらがどれだけ設計しても、現場が動かなければ何も変わらないという「介入の限界」。
かなり専門的な例になりますが――海外ファンドに買収された企業の組織改革を支援したときのこと。ファンド側が一気に構造改革を進めようとしたものの、現場からすれば「外から勝手に言うな」ですよね。一方で日本側の担当者は“言われたからやっているだけ”だから納得していない。
クライアントが描く変革の方向性と、こちらが提供できる支援がズレた瞬間に、介入の限界が露わになるわけです。
山本:クライアントがやりたいことと、こちらが提供するサービスがぶつかる瞬間ですよね。コンサルはサービス業なので、最終的には相手のやりたい方向に寄せざるを得ない。そのミスマッチが構造的な難しさとして残ってしまう。
奥地:アセスメントでロジカルに示しても、「方針に合う分析を出してほしい」と求められることもあります。つまり、“お墨付き”を得るためにコンサルを使うケースですね。あれは正直しんどい(笑)
これまで「実践」してきたからわかる、
“ダブルスタンダード”問題
――話題は、実践で浮き彫りになる矛盾へ。
糸井:先ほどの“ぶつかり”や“ズレ”の話ですが、プロジェクトを実際に走らせてみないと見えてこない部分があるんでしょうか?
山本:はい。プロジェクトが始まって、実際にクライアントの組織構造や制度を見て初めて「経営層が実現したい価値とは違う価値が企業内に存在している」と分かる瞬間があります。
奥地:深掘りしていくと企業内部の“ダブルスタンダード”が一気に浮き彫りになるんです。理念では「挑戦を歓迎する」と掲げているのに、運用ではまったく噛み合っていない、とか。
意思決定、業務プロセス、組織構造、人材の裁量……そのどれか1つを変えても、他がそのままだと動きません。
ルービックキューブのように、一面だけ揃えても意味がないんです。
――「フィードバックの難しさ」も話題に上がった。
糸井:PROJECT anyでは、学生に本物の挑戦体験をしてもらうため、最終ジャッジは必ず経営陣にお願いしています。共創プロジェクトに参加する学生も、自身の成長のために実践レベルでのフィードバックを期待してくれています。でも、どうしてもフィードバックが甘くなりがちで……。
先日も、役員の方のコメントが少しやわらかいなと感じたので、「厳しい話をしますが聞いてくださいね」と前置きして、僕からは率直に伝えました。
感情が入りすぎるのもダメだし、気を遣い過ぎても伝わらない。特に最近はパワハラにならないようにと気を遣いすぎて、愛ある叱咤をもらいたい若手がその機会を得られないことによる機会損失がとても大きいと感じています。これは日本社会全体の損失につながると危機感を覚えています。私たちの役割は、そうした意欲のある若者と社会を橋渡しすることにあるのだと改めて感じたできごとでした。

場を一瞬で変える!20代ならではの“空気のチカラ”
山本:最後に話題を変えましょう。
糸井さんは、20代ならではの強みは何だと思いますか?
糸井:いちばんは、場の空気を一瞬で変えてしまう特別な力があることです。
無垢で明るく、素直にアイデアを出していくので、学生がプロジェクトに入ると、クライアント企業の空気がガラッと変わるんですよね。
20代の右脳的な発想は、突拍子もないけど面白い。それに刺激されて、意外性だけではなく、新たな気づきを促すような力まであるように思います。
あの変化は、やっぱり20代ならではです。
奥地:論理武装する大人とは大違いですね。でも20代が加わると、そこに“情理”みたいなものが立ち上がって、場が動き出すんです。
論理だけでは動かない場面を前に進めてしまう——あれは20代ならではの、不思議な強さだと思います。大人になるとどうしても言葉が冷たくなりがちです。でも20代が入ると、そこに“情理”が生まれて場が動き出す。論理だけでは動かない瞬間を動かせる——それが20代の持つ、不思議で強い力なんでしょうね。
山本:これまでの話を踏まえると、実践の中で見えた“壁”こそが次の可能性を考える出発点になる気がします。
最終回では、その先にどんな未来が描けるのか——共創の話を深めていきたいと思います。
【次回予告】
第3回では、両社が現場で実践をとおして直面してきた壁と限界について語り合った。企業側の課題、学生側の課題、コンサルティングの限界、構造的なダブルスタンダード。理想を掲げるだけでは、社会は変わらない。
しかし、だからこそ2つのプロジェクトが協力することで、新しい可能性が見えてくる。最終回(第4回)では、CFJとPROJECT anyが見出す共創の可能性と、次世代に伝えたい「挑戦」の意味について語る。