人の力を引き出す3つの要素は、
メリット・ロジック・期待。
花谷:ここまでのお話を伺っていると、平林さんの事例も含めて、人が力を発揮する背景には共通する考え方があるように感じます。改めて田辺さんは、人の力を最大限引き出すために、何が重要だと考えていますか?
田辺:まとめると、3つです。1つ目は、自分へのリアルなメリットが見えること。2つ目は、納得できるロジックがあること。そして3つ目は、「あなたに期待している」というメッセージです。
「会社のために頑張れ」と言われても、人はなかなか動きません。でも、「これをやることで自分が成長できる」「このやり方にはきちんとした根拠がある」「自分に期待してくれている」と感じられたら、人は驚くほど力を発揮するんです。

中川:すごく共感します。コンサルティングの世界ではロジックを徹底的に鍛えられますが、それだけで人が動くわけではないんですよね。どれだけ正しいことでも、相手が「自分ごと」として受け取れなければ行動にはつながらない。納得感だけでなく、「やってみたい」と思える気持ちも必要なんだと思います。
田辺:その通りです。技術や知識だけでも、熱意だけでも人は動かない。両方がそろって初めて、人も組織も大きく変わっていくんです
働く大人が変われば、未来は変わる

花谷:パナソニックITSを離れた今、田辺さんはどのようなことに取り組まれているのでしょうか。
田辺:今取り組んでいるのは、「子どもの貧困解決」「起業家教育」「シニア活用」を掛け合わせた事業です。
花谷:かなり大きなテーマですね。なぜ、その3つを掛け合わせようと思われたのでしょうか。
田辺:子どもたちの可能性を引き出すには、教育だけでも福祉だけでも足りないと思っているからです。未来を担う子どもたちと、挑戦する起業家、そして経験豊富なシニア世代。それらをつなぐことで、日本の未来そのものを育てたいと考えています。
今10歳、15歳の子どもたちは、30年後の日本を支える世代です。特に厳しい環境に置かれている子どもたちほど、強いハングリー精神を持っている。そこに一流の起業家教育や、経験豊富な経営者の知見を届けられたら、日本の未来はもっと面白くなると思うんです。私はこれを社会課題ではなく、「社会チャンス」だと考えています。

中川:なるほど。僕は田辺さんのように高尚な考え方ではないのですが、「目の前の一人を元気にしたい」という想いの方が強いかもしれません。仕事は人生の大きな時間を占めるものです。その時間が楽しくなければ、人生全体の幸福度も下がってしまう。だからこそ、仕事をもっと前向きに楽しめる大人を増やしたいと思っています。
田辺:今のお話を聞いていて、アプローチは違っても目指している方向は同じだなと感じました。私は未来の世代に向けた仕組みづくりに取り組んでいますが、その根底にあるのは「働くことに希望を持てる人を増やしたい」という想いです。中川さんがおっしゃる「目の前の一人を元気にしたい」という考え方とも、根っこはつながっていると思います。
花谷:一方で、実際には仕事を前向きに楽しめている人ばかりではないですよね。むしろ、「仕事は大変なもの」「つらいもの」と感じている人も少なくないと思います。
田辺:もちろん仕事ですから、大変なこともたくさんあります。でも、それと同じくらい、面白いことや心が動く瞬間もあるはずなんです。たとえば海外出張でもそうです。ラウンジで飲む一杯のコーヒーや、現地でしか味わえない食事など、その土地ならではの醍醐味がたくさんある。
ところが、多くの人は帰ってくると「大変だった」の一言で終わらせてしまうんですよね。そうすると、話を聞いた若い世代は「海外勤務は辛そうだな」「仕事は苦しいものなんだな」と受け取ってしまう。だから私は、大人がもっと「働くことの面白さ」を語っていいと感じているんです。そんな大人が増えたら、仕事に対する空気も少しずつ変わっていくのではないかと思っています。
組織変革の原点は、人の可能性を信じること。

花谷:ここまでのお話を伺っていると、ドイツでの経験も、パナソニックITSでの組織変革も、そして今取り組まれている事業も、すべて「人の可能性をどう引き出すか」「人が輝く環境をどうつくるか」というテーマでつながっているように感じます。
田辺:まさにそうですね。私はその考え方を、「ヒトつながり資本」「ヒトワクワク資本」「ヒト環境資本」という3つの資本として整理しています。ヒトつながり資本は、人との出会いやネットワーク。ヒトワクワク資本は、挑戦したくなる期待や未来への希望。そしてヒト環境資本は、人が安心して力を発揮できる場づくりです。
どれだけ優秀な人でも、環境が悪ければ力を発揮できません。どれだけ制度を整えても、期待されなければ挑戦できません。どれだけ能力があっても、人とのつながりがなければ成長できません。だから私は、人が輝く環境づくりに経営資源を投資し続けてきました。こうした考え方は、7月に出版する『ヒト輝かせ資本経営 未来をつくるチカラの本質』にもまとめています。
花谷:一方、現場では「部下が動かない」「組織が変わらない」と悩む人事担当者や管理職の方も多いと思います。そうした方々へメッセージをいただけますか。
田辺:私はこれまでたくさんの組織を見てきましたが、人は環境や役割によって驚くほど変わります。だからこそ、「この人はできない」と決めつけるのではなく、「この人は、どうしたら力を発揮できるのか」を考えてほしいです。人を輝かせる経営の出発点は、目の前の一人の可能性を信じることです。
加えて、経営者や管理職が楽しそうに働いていなければ、その組織はなかなか前向きにはなりません。現場のメンバーだけでなく、マネジメント層も挑戦し続けること。それが組織変革の原点だと思っています。
中川:人事やマネジメントに関わる方にとっても、とても示唆のあるお話でした。メンバー一人ひとりが、力を発揮できる環境をつくること。そして、自分自身も前向きにチャレンジする姿勢を持つこと。その積み重ねが、組織を変える第一歩なのだと感じました。本日はありがとうございました!
田辺孝由樹氏 著書のご紹介
今回の対談で語られた「人を輝かせる3つの資本(人つながり資本 × 人ワクワク資本 × 人環境資本)」は、田辺氏の著書『ヒト輝かせ資本経営 未来をつくるチカラの本質』(7月発売予定)にも詳しく書かれています。

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