第2回では、近藤祐輔社長のマネジメント論に踏み込む。
現場とどう向き合い、選手に何を求め、チーム文化をどうつくっていくのか。プロスポーツの現場から、ビジネスにも通じる勝つためのチームづくりと、人材育成の本質に迫った。
経営もチームも、結局は「人をどう動かすか」
――第2回では、近藤社長のマネジメント論についてお聞きしたいと思います。
クラブにはフロントを含めた組織としての経営があり、一方で、選手や監督を中心としたチームがあります。クラブ経営とチームマネジメントのバランスは、どう保っているのでしょうか。

近藤社長:結論から言うと、経営とチームマネジメントは一緒です。ただし、向かうベクトルが違うんです。
チームの目指すところは「優勝」で、ブレません。ある意味とても単純で筋が通っている分、マネジメントとしてはやりやすいと思います。
一方、クラブ組織は各人の思いが違います。もちろんクラブを良くしたい、上を目指したいという思いは同じでも、それぞれに役割があって、自分の仕事がある。その分、チームとは違う難しさがあります。
そして、現場は勝つためにやっているけれど、今の時代は「勝つためなら何でもいい」というわけにはいきません。そこの強弱のつけ方は違いを実感しますね。
――それは企業組織にも通じる話ですね。会社でも「同じ目標に向かっている」と言いながら、実際には一人ひとりの役割や見ている景色が違う。そこをどうそろえていくかが難しいのだと思います。 一方で、サッカーの現場は勝敗がはっきり出る世界です。近藤社長は、監督とかなり密にコミュニケーションを取られていると伺いました。
毎朝10分の対話がチームの温度を変える
近藤社長:今は毎朝8時から監督とミーティングをしています。必要に応じて外部の評価スタッフも交えますが、前日の練習のことや、次の試合に向けたメンバーのことなど話すことは意外と多いんですよ。
ただし、毎朝のミーティングは手短にして、週に一度は1〜2時間ほど時間を取って、もう少ししっかり話すようにしています。
じっくり話すよりも、毎日10分の「見てもらえている」「共有できている」という頻度が大事だと思っているので。
――それにしても、経営者がそこまで密にコミュニケーションをとるのは珍しい気がします。

近藤社長:僕としては、納得のいく勝ち負けでありたいんです。現場に任せきりにして負けたから切る、というのは違うと思っています。
もちろん監督には監督の責任がありますが、クラブとして一緒に成長していかないといけない。任せるところは任せながら、コミュニケーションは欠かさない。そこは大事にしています。
――選手とはどういう距離感で?
近藤社長:クラブの代表として話す必要があれば全体に向けて話しますが、基本的には一定の距離を取っています。近くなりすぎると、社長として伝える言葉の意味合いが変わってしまうこともありますから。 常に「今このタイミングで代表から伝えるべきかどうか」を見極めるようにしています。
「調整」で終わる選手に、次のチャンスは来ない
――選手のマインドセットについては、どのように見ていますか。
近藤社長:多くの選手にはまだ足りない部分があります。
選手にはよく言うんですけど、僕は「調整」という言葉があまり好きではなくて。毎週試合があるので、コンディションを整えることはもちろん必要。ただ、下のカテゴリーにいる選手が調整ばかりしていては上達しません。
上を目指すなら、1週間でうまくならないといけないんです。毎週少しでも自分の上限を上げる。監督が求めていることを理解し、それをできるようにしていく。
試合に出て初めて、自分を表現する場所があるわけですから。 ――それはビジネスパーソンにも通じますね。目の前の仕事をこなすだけでなく、求められている役割を理解し、少しずつ自分の上限を上げていけるかどうか。そこが成長の分かれ目になるのだと思います。
“誰を入れるか”で変わるチーム文化
――組織文化を変えることは、企業でも非常に難しいテーマです。サッカーチームの場合はいかがですか。
近藤社長:そもそも僕は、人は簡単には変わらないと思っているんですよ。だから文化を変えるには、どんな人がどれだけチームにいるかがポイントになってくる。
FC大阪でいうと、「走る・強度を高くやる・一生懸命やる」というベースがあって、これは変えたくない。ただし、上に行くためにはそれだけでは足りず、判断の速さやプレーの精度、細部へのこだわりも必要です。
FC大阪らしい泥臭さや運動量は残しながら、より高い基準を持った選手が増えていく。そして、基準を持った選手が増えることで、チーム全体の空気も変わっていく。文化は、そうやって少しずつつくられていくものだと思います。

――企業でも、スキルの高い人を採用すれば必ず組織が良くなるとは限りません。サッカーの場合も、能力だけでは判断できない部分があるということですね。
そう考えると、選手の補強も単に戦力を足すだけではなく、チーム文化にどう影響するかまで見ているのでしょうか。
近藤社長:おっしゃる通りです。たとえば元日本代表のような有名選手は、技術と知名度を持っていて、プロモーション面でも大きな魅力があります。しかし、そのような選手には発言力があるので、良くも悪くも、彼らの一言がチームの空気に影響を及ぼしかねません。
今のFC大阪にとって一番必要なのは、チームとして上に行くことです。 ですから、知名度や実力だけではなく、今のクラブに合うかどうかを見る。補強は、組織の文化をつくる判断でもあると思っています。
“相手を喜ばせようとする心”はあるか?
――ここまで伺ってきたお話は、一般企業の組織づくりにも通じる内容が本当に多いと感じました。
近藤社長がスポーツクラブ経営を通じて感じている「ビジネスの世界でも通用する組織論」があるとすれば、どのようなことでしょうか。

近藤社長:どの業界にも言えると思いますが、一番大事なのは、「相手を喜ばせようとする心」があるかだと思います。
パートナー企業との課題解決も、結局はその延長。相手が何を考えているのか、何を求めているのかを考えられるか。それができる人は強いですよ。
一方で、プロスポーツの現場と、ビジネスの現場では当然、違いもあります。
プロスポーツ選手は、そもそも試合に出られなければ自分を表現する場所がありません。ビジネスパーソンの場合は、できる・できないにかかわらず、すでに現場に立っていることも多いでしょう。
ただ、どちらにも共通しているのは、相手が何を求めているのかを理解し、応えようとする姿勢です。
上司でも部下でも、クライアントでも、まず相手に求められていることを理解して、やり切ること。
そうした積み重ねが信頼につながり、次のチャンスを生んでいくのだと思います。
――ありがとうございました。前編ではクラブ経営、後編ではマネジメント論と、かなり幅広くお話を伺いましたが、どの話も「人とどう向き合うか」に通じていたように感じます。
近藤社長:そうですね。クラブ経営も、チームづくりも、結局は人との関係が大きいですから。
――冒頭でもお話ししましたが、次は6月ですね。またその時に、今日の続きをぜひ聞かせてください。
近藤社長:ぜひ。こちらこそ、よろしくお願いします。

【メガネ社長の編集後記】
「調整」ではなく「成長」を目指す――今回の対談で、もっとも胸に残った言葉です。
毎週試合があるプロの現場では、コンディションを整えるだけでは足りない。次の試合までの一週間で、どれだけ自分の上限を上げられるか。
近藤社長の言葉には、プロとして生きる人間への厳しさがありました。
そしてそれは、決してサッカーだけの話ではありません。
ビジネスの現場でも、日々の業務を「こなす」だけでは次のステージには進めない。求められている役割を理解し、相手の期待に応えようとする姿勢があってこそ、自分の力を示す機会が生まれるのです。
もう一つ印象的だったのは、「相手を喜ばせようとする心」の話。
相手が何を求めているのかを考え、そこに応えようとする姿勢があるかどうか。組織を動かす力は、特別な才能や派手な実績だけではなく、そうした一つひとつの姿勢から生まれるはずです。
勝つ組織は、強い個人を集めるだけではつくられない。同じ方向を向き、自分の役割を理解し、日々の中で少しずつ基準を上げていく。その積み重ねが、やがてチームの文化になる。
FC大阪の現場から見えてきたものは、勝つために何を守り、何を変えるのかという問いでした。誰を仲間に迎え、どんな空気をつくるのか。その判断の積み重ねが、チームの文化を形づくっていく。
プロの現場は、甘くない。だからこそ、日々の姿勢が問われる。 この対談は、FC大阪というクラブの物語であると同時に、私たち一人ひとりが「自分の現場」でどう成長していくのかを考える時間でもありました。