大阪には、ガンバ大阪、セレッソ大阪という全国的な知名度を持つJリーグクラブがある。その中で、東大阪市をホームタウンとする『FC大阪』は、どのような存在感を築こうとしているのか。
今回、Luvir Consulting代表の中川が話を聞いたのは、FC大阪の運営元である株式会社F.C.大阪の代表取締役社長、近藤祐輔氏だ。元選手であり、現在はクラブ経営を担う立場から、地域・行政・企業との連携、Jリーグクラブとしての成長戦略、さらにはビジネスパーソンにも通じる人材育成や組織づくりのヒントまで語ってもらった。第1回(前編)では、FC大阪が貫いてきた独自路線のクラブ経営に迫る。
| 〇近藤祐輔氏 プロフィール 株式会社F.C.大阪 代表取締役社長 1986年、北海道生まれ。北海道文教大学明清高等学校を卒業後、2005年にザスパ草津に加入。ゴールキーパーとしてプレーし、2007年以降はバンディオンセ神戸/バンディオンセ加古川、FC大阪で選手生活を送る。2014年1月に現役を引退し、同年からFC大阪の事業部に所属。2017年に事業統括部長、2019年にクラブ運営会社の取締役副社長に就任した。 2021年3月、株式会社F.C.大阪の代表取締役社長に就任。現在はJリーグクラブとしての競技力向上に加え、地域・行政・企業と連携して、ホームタウンである東大阪に根ざしたクラブ運営を推進。近年はサステナビリティプロジェクト「ACT NOW」などを通じ、環境への取り組みや循環型社会の実現にも活動の幅を広げている。 |
| 〇司会進行 Luvir Consulting株式会社 中川裕貴 代表取締役/CEO |
元プロ選手から異色のキャリアパス
急転直下で引き継いだクラブ経営

――本日はお時間をいただきありがとうございます。近藤さんとはご無沙汰しており……ませんね(笑)。前回、お食事をご一緒したのは1カ月ほど前でしたか?
近藤社長:ですね(笑)
――次回、お会いする予定の6月も楽しみにしています。
近藤社長:こちらこそです。
――では改めて。今回は「プロスポーツに学ぶマネジメント」をテーマにお話を伺います。一人ひとりが自分の役割に没頭し、その力が集まったとき、組織はどう動き出すのか。近藤社長が考えるチームづくりやクラブ経営について、ぜひお聞かせください。
まずはご自身について伺います。元FC大阪の選手で、そこからクラブ運営に携わり、現在は代表として経営を担っていらっしゃいます。どのような経緯でクラブ経営の側に入られたのでしょうか。
近藤社長:最初から代表になることを考えていたわけではありません。現役引退後は指導・強化の立場でクラブに関わりながら、FC大阪の(当時の)運営会社でセールスプロモーション事業にも携わっていました。とにかくビジネスマンとして力をつけたいという思いがあったんです。
その後、2015年にFC大阪がJFLへ上がり、サッカーを事業として成り立たせていくフェーズに入ったことで、運営側の仕事にも深く関わるようになりました。
代表に就任したのは、前代表の疋田晴巳が急逝したことがきっかけです。それまでは副社長としてやらせていただいていたのですが、本当に急転直下でした。
――予定されていたわけではなく、急な形で代表を引き継ぐことになったのですね。
近藤社長:はい。ただ、クラブ運営に関わる中で、いつかはJリーグクラブの社長をやりたいという気持ちは芽生えていたんです。 とはいえ、やはり急なお話だったので、引き継ぐ以上はクラブを前に進めるしかない。そう腹を括りました。
Jリーグ参入に向けて変わった 行政との向き合い方
――代表を引き継いでからは、Jリーグ参入に向けた準備も進めていくことになります。
近藤社長:当時はまだJFLでしたから、Jリーグに参入するために一つずつ環境を整えていく段階でした。
クラブとして強くなることは当然ながら、それだけではJリーグには上がれません。ホームタウンやスタジアムの問題もありますし、地域や行政との関係づくりも欠かせないテーマでした。
転機になったのが、2018年に大阪府と包括連携協定を締結したことです。
その流れの中で東大阪市をホームタウンとする話を進める事が出来ました。

――大手資本との提携については、どのようなお考えですか。
近藤社長:最終的には世界と戦えるクラブを目指しているので、そのための手段として大手資本と組む可能性はゼロではありません。 ただ、現在の成長段階では極力、自分たちでできるところまでやりたい。J1の市場は資本力とも大きく関わってくるので、どのタイミングで何を選ぶかは、今後のクラブの状態によって変わってくると思います。
“同じ土俵で戦わない”FC大阪が選ばれる理由
――一方で、大阪にはガンバ大阪、セレッソ大阪という大きなクラブがあります。そうした環境の中で、FC大阪はどのように独自の価値をつくってきたのでしょうか。
近藤社長:そもそも比較するレベルではないので、同じ土俵に乗っているとはまったく思っていません。
サッカークラブの収入源は、一般的に6〜7割ほどがスポンサー収入です。そこで広告価値を前面に出すと、どうしても大手クラブと比較されてしまう。
ですから我々は、スポンサー企業様に対して、広告枠を買っていただく関係ではなく、課題を一緒に解決していく関係をつくろうとしてきました。
――単に広告枠を売るのではなく、一緒に何ができるかを考える。
近藤社長:そうです。たとえば、中川さんもサッカーが好きじゃないですか。では、Jリーグクラブの「胸スポンサー」をどれくらい知っていますか?と聞かれたら、意外と知らないと思うんです。
――サッカー好きでも知らないものを、一般の方がどれだけ知っているのか、という……。

近藤社長:そう考えると、広告効果だけで語るのは難しい。
そこで我々が重視しているのが、企業さんが抱えている課題に対して、FC大阪として何ができるかです。
自治体・ファン・サポーター・パートナー企業……多くの人々が関わるサッカークラブだからこそ、つなげられる接点があります。そこからアイデアを出し合い、社会課題や地域課題の解決につなげていく。 企業にとっても、地域にとっても、クラブにとっても意味のあるWin-Winの関係をつくることが、我々のクラブ経営の基本です。
ホームゲームを“環境へのアクション”の場に
――1社だけではできないことを、FC大阪がハブになってつないでいくわけですね。
企業や行政、地域を巻き込んだ取り組みとして、どのようなプロジェクトがありますか?
近藤社長:たとえば、植田油脂株式会社さんと協業で実施してきた「廃食用油回収」の取り組みがあります。
家庭から出る使用済みの油は、まだ回収しきれていない部分が多い。そこで、FC大阪のホームゲーム開催時に回収ブースを設け、来場者の方に家庭で使った天ぷら油などを持ってきてもらう取り組みを始めました。
回収した廃食用油はリサイクルし、クラブの移動用バスのエネルギー資源としても活用しています。CO2排出削減にもつながる取り組みですし、我々は「SBT認証」を取得しているので、こうした気候変動対策はクラブとしても重要なテーマです。
廃食用油を持参いただいた方には、試合の招待券などをお渡しします。きっかけは「チケットをもらえるから」でもいいと思うんです。結果として、家庭で捨てにくかった油が回収され、リサイクルへの関心が生まれる。さらに、FC大阪の試合を見に来てもらう入口にもなる。
我々は環境分野での表彰(*)にもつながりましたし、こういう形で社会課題にアプローチできるのが、サッカークラブならではの面白さだと思います。
*令和7年度・大阪府が主催する環境表彰制度「おおさか環境賞」において、植田油脂株式会社が「大賞」、FC大阪が「協働賞」を受賞
――環境への取り組みであり、企業や地域、クラブにとっても意味のある接点になっているんですね。
パートナー企業は、東大阪を中心としたローカル企業が多いのですか?

※植田油脂株式会社様との廃食用油回収の取り組み
近藤社長:必ずしも地域の企業様だけではありません。一時期は東京の企業様とのパートナーシップが多かった時期もあります。
というのも、我々が取り組んできた課題解決型のパートナーシップは、新しい事業展開や社会的な取り組みに関心を持つ企業様との相性が良かったので。 ただ、クラブとして地域密着はやっていきたいですし、やらなければならないことでもある。現在は、ホームタウンである東大阪の企業様との接点や協業を重視しています。
試合の日だけじゃない。「日常にFC大阪」を
――代表に就任されてから、クラブとして特に力を入れていることは何でしょうか。
近藤社長:現在は“ホームタウン活動”ですね。
Jリーグに上がったことで見られ方は変わりましたし、ポスターを見ていただける機会も増えたと思います。ただ、劇的にファン・サポーターが増えたかというと、まだまだこれから。
試合の日だけではなく、日常の中でFC大阪を気にかけてもらう場面を増やしていかなければなりません。
サッカークラブには多くの人が関わっています。難しさもありますが、企業や行政、地域の方々と一緒に、クラブを通じて何ができるのかを考え続けていきたいと思います。
――大手クラブと同じ土俵で広告価値を競うのではなく、企業や行政、地域が抱える課題をつなぎ、解決に向けたアクションをつくっていく。そこにFC大阪らしさがあるのでしょう。
第2回では、近藤社長のマネジメント論に踏み込みます。
近藤社長:どうぞお手柔らかにお願いします(笑)。

【次回予告】
プロスポーツの現場では、選手・監督・フロントがそれぞれの役割を担いながら、「勝利」という目標に向かって進んでいく。そこで経営者は、現場とどう向き合い、チームをどう動かしていくのか。
毎週試合がある中で、選手はなぜ「調整」ではなく「成長」を目指すべきなのか。第2回(後編)では、プロスポーツの現場から、ビジネスにも通じる“勝つ組織”の条件を考えていく。