「辞めるかどうか」を考えるのをやめた日
事業承継で見えた等身大のリーダーシップ
第1回では、車買取専門店「ユーポス」の成り立ちや、オークション会場「ベイオーク」と連携した流通システム、FC本部としての店舗展開について話を聞いた。
第2回では、柏原隆宏氏自身の歩みに視点を移す。洗車から始まった現場経験、先代から受け継いだ会社との向き合い方、そして、周囲の声を聞きながら決めるリーダーシップ――柏原氏の言葉から見えてきたものは、絶対的なカリスマで組織を引っ張るリーダー像ではなく、等身大で組織に向き合い続ける経営者の姿だった。
「洗車」から始まった社長への道
――第1回では、ユーポスさんの事業モデルやFC展開について伺いました。第2回では、柏原社長ご自身の歩みを中心にお聞きしていきます。
プロフィールでも触れましたが、ロードカーさんは柏原社長の祖父の代から続く会社です。東京ユーポス、ロードカー、ユーポスと段階的に経営を担われてきた中で、会社としては何代目にあたるのでしょうか。
柏原社長:細かく言うと4代目のような形ですね。実際には父がいろいろと事業を広げてきました。その後、長く会社を支えてきた生え抜きの方が社長を務め、僕がその次を担うことになったので。
――最初から「将来は会社を継ぐ」と強く意識されていたのですか?
柏原社長:いえ、若い頃は建設会社で働いていましたし、その後も別の道を考えていた時期があります。ただ、頭のどこかで家業と関わることになるのかな、という予感はあったんでしょうね。
――では、入社したきっかけは?
柏原社長:ある日、前の社長から「一度、車の仕事をやってみたらどうか」と声をかけてもらったんです。
だけど、順風満帆では全くなく……。入社して、最初は洗車から始めました。本当にイチから、現場で仕事を覚えていきました。
それから半年ほどで店長を任せてもらいましたが、僕の場合はかなり厳しく鍛えられたので、何度「辞めよう」と思ったことか(笑)

――そうなんですか!? しかも経営側ではなく、現場からのスタート。
柏原社長:でも、社長の息子という立場もあるので簡単には辞められない。そこであるとき、「辞めるかどうかを考えるのをやめよう」と思ったんです。何だかトンチみたいですけど、もうやるしかないなと。そこから少し楽になりました。大げさに言えば、覚悟ができたのかもしれません。
現場をまったく知らずに社長になっていたら、今とは違っていたと思います。 もちろん、今もすべてをわかっているわけではありませんが、現場で何が起こっているのか、スタッフがどんなことで悩むのかを、多少なりとも肌で感じることができたのは良い経験でした。
承継は「自分色に塗り替える」ことではない
――事業承継では、先代のやり方を引き継ぐ部分と、自分の考えを出す部分のバランスが難しいと聞きます。柏原社長はどのように向き合ってこられましたか。
柏原社長:基本的には、先代や前任者が大事にしてきた考えを尊重してきたつもりです。僕自身、強いトップダウンで引っ張るよりも、皆が気持ちよく動いてくれたらいいなと思うタイプなので。
とはいえ、意見が違うことはありました。でも、それは悪いことではないと思っています。お互いに自分の考えがあるからこそ、意見が分かれることもある。そこは自然なことだと思うんです。
先代には先代の経験があります。長くやってきたからこそ、理屈ではなく感覚でわかることもある。 一方で、自分には同じだけの経験がない。それなのに、感覚だけを真似すると失敗しますよね。だから僕の場合は、周囲の声をよく聞きながら、慎重に判断するようになったのだと思います。
「社長は勝手に決める」と言われて……
――受け継いだものを尊重しながらも、ご自身の判断の仕方を探ってこられた。
柏原社長:そうですね。僕は、めちゃくちゃいろんな人に聞くんですよ。役員にも、現場のスタッフにも聞きます。店長をしていた頃は、商談がうまくいかないときに「こういう場合どうする?」とスタッフに聞いていました。
いろいろな人の意見を聞いて、それを自分の中で集約して決めていく。今もそういう感覚に近いです。
ただ最近、社員から「社長は勝手に決める」と言われたことがありまして……。
――なぜそんなことに?
柏原社長:自分ではみんなの意見を聞いた上で判断しているつもりでも、その意見をどう反映したのかを伝えていなかったんです。そこは大きな反省点です。
ちなみに中川さんは、そういう意思決定の場面で何を大事にされていますか?
――僕は、最終的にAかBかを決めることそのものよりも、決めた後にみんながどれだけ気持ちを入れて動けるかを重視しています。どちらを選んだとしても、正解にしていくのはその後の行動だと思うので。

柏原社長:そうですね。結局、決めた後にみんなが前を向けるかどうかなんでしょうね。そのためにも、聞いた意見をどう受け止めたのかは伝えないといけないなと感じています。
――リーダーとして、熱量や考えを伝えるために意識していることはありますか。
柏原社長:5〜6年ほど続けているのですが、毎月、通達文のような形で自分の考えを発信しています。テーマを決めて文章にし、それをもとに社員に話すんです。 これは僕自身にメリットがあって、自分の考えも整理されていくので。よく「教える側が一番学ぶ」と言いますが、社員と一緒に学ぶ機会にもなっていると思います。
「知らない」と言えるうちに聞いておけ!
――なるほど。伝えることが、ご自身の学びにもなっているんですね。そう考えると、次の世代にどう受け継いでいくかという話にもつながってきそうです。
柏原社長は今年54歳になられると伺いました。以前この対談で、50代で株式譲渡を決断された経営者にお話を聞いた際、「承継は渡して終わりではなく、その後も伴走する時間が必要だから、早めに考えた」とおっしゃっていたんです。
柏原社長は、次の承継について何か考えていらっしゃることはありますか?
柏原社長:これから考えていかないといけないですね。
承継は本当に難しいと思います。親族に継がせるのがいいのか、社内の人材に任せるのがいいのか、外部の方に託すのがいいのか……。会社の中で一番優秀な人材が、たまたま親族であるとは限らないですし。本人がやりたいと言っても、それが会社にとってベストなのか。本人にとってもベストなのか。社員やお客様にとってはどうなのか――そのすべてを考えないといけません。
ですから、選択肢はいくつか持っておく必要があると思っています。
――これから事業承継をする2代目、3代目の方に向けて、アドバイスをいただくとすれば何でしょうか。
柏原社長:される側の立場で言えば、できるだけ若いうちに経験した方がいいですよと言いたいです。なぜなら、若いうちはわからないことを聞きやすいから。
年齢を重ねてから上に立つと、プライドが邪魔をして「今さらこんなことを聞けない」となる。でも若いうちなら、本人も周囲に聞きやすいし、どれだけ聞いても許されるじゃないですか。

――その切り口は目から鱗が落ちる思いです! 肩書きを背負いすぎないことも大事ですね。
柏原社長:そう。僕も“ええ格好”することはありますけど(笑)、経営者も等身大でいる必要はありますよ。
先代が積み上げてきたものは尊重する。でも、言いなりになるのとは違う。自分はどう考え、どう判断するのかは持っておかないといけない。
背伸びしすぎず、でも流されすぎない。そのバランスなんでしょうね。
――今日のお話は、個人的にもすごく勉強になりました。
わからないことを聞くこと、受け継いだものを尊重すること、そして最後は自分の考えで判断すること。その一つひとつが、事業承継における大きなヒントになるのだと感じました。
柏原社長:そんなふうにまとめていただくと、なんだか立派なことを言ったみたいですが(笑)
今日は普段あまり言葉にしていないことまで話せた気がします。いい振り返りの時間になりました。

【メガネ社長の編集後記】
今回の対談で僕が驚いたのは、柏原社長がご自身を決して大きく見せようとされないことでした。強烈なカリスマで組織を引っ張る経営者像とは、むしろ対極にある姿です。
最も象徴的だったのは、「知らないことは聞いた方がいい」という言葉。
わからないことは現場の社員にも聞く。聞いたうえで自分の中に落とし込み、最後は自分の言葉で判断する。
一見シンプルに見えるその姿勢を、経営者という立場で続けるのは決して簡単ではありません。上に立つほど「知らない」と言いにくくなる。だからこそ、聞くことを弱さではなく、判断するための姿勢として持ち続けているところに、柏原社長らしさがあるのだと思います。
そして事業承継においても、柏原社長は「先代と同じようにやる」ことを選ばなかった。かといって、受け継いだものをすべて塗り替えようとしたわけでもありません。
先代や前任者が積み重ねてきたものを尊重しながら、現場で学び、周囲の声を聞き、自分なりの判断を少しずつ重ねていく。そこに、柏原社長の“聞く経営”の原点があるのでしょう。
声の大きさで人を動かすのではなく、人の声を聞き、自分の中で受け止め、最後は自分の言葉で決める。
派手ではないけれど、だからこそ人がついていく。そんな等身大のリーダーシップを、柏原社長の言葉から教えていただきました。 柏原社長、本日は貴重なお話をありがとうございました!