具体的な実施方法
目標に具体性を持たせるためには「何を」「いつまでに」「どれくらい」達成するかといった詳細が求められます。
この具体的な目標を設定するために用いられるのが『SMART』です。
SMARTとは、グローバル企業で最もよく用いられるフレームワークで
5つの頭文字を取っています
SMARTな目標のポイント
①Specific(具体的で)
②Measurable(計測可能な)
具体的な目標のためには、どのようなテーマに取り組み、何を(指標)、どれくらい(水準)達成するのかを定める必要があります。
まずはテーマですが、これには「顧客満足度の向上」や「マーケットシェアの拡大」などの取り組む概要を記載します。
次に、「何を・どれくらい行えば、そのテーマを達成したと言えるか」を記載します。
「売上の拡大」や「オペレーションの改善」など、テーマのみを設定して目標としてしまうケースも散見されますが、これでは達成したと言える判断基準がわからず、どこまで取り組めばよいのか明確ではありません。
たとえば、「売上の拡大」であれば、次のように記載します。
テーマ:製品Aの売上の拡大
指標:製品Aの売上金額
水準:100万円/月(昨年対比+10%)
なお、テーマに対する指標と水準は複数設定することも有効です。
たとえば、採用活動の目標であれば次のように記載します。
テーマ:他社に負けない採用力の向上
指標と水準:
①求人開始から内定承諾までの平均日数を60日にする
②1人あたりにかける平均採用コストを100万円とする
③平均内定承諾率を70%とする
バックオフィスに関することは指標と水準があいまいになりがちなので、可能な限り定量化することが求められます。
たとえば、人材の育成であれば次のように記載します。
テーマ:〇〇処理を身に付けた社員の育成
指標:〇〇処理業務の習熟度
水準:誰の助けも借りずに3日以内に完了できるレベル
一方、定性目標の場合は厳密な定量化が難しい場合があります。
この場合の有効な指標や水準の設定として、上司やユーザーの反応・コメントを活用する方法があります。
ユーザーの反応はアンケートなどで確認できるとよいですが、集計方法や回答する側の手間などから実施が難しいこともあります。
そのため施策に対してどのようなコメントや反応があったかを判断基準とすることも有効です。
たとえば、社内イベントであれば、次のように記載します。
テーマ:社員が楽しめる社内イベントの企画と実施
指標:参加した社員の反応
水準:「今までで一番楽しかった」と言われるレベル
また、評価制度と組み合わせて運用している場合は、どの水準なら「期待以上」または「期待未満」なのか、おおよその期待値を話し合うことも有効です。
特に定性目標については、どうすれば「期待以上」となるのかを考えると、指標や水準の発想が広がります。
③Attainable(達成可能な)
目標は本人が努力すれば達成可能なレベルで設定します。
達成できる目標を設定すれば、モチベーションと集中力を維持するのに役立ちます。
通常時ではあり得ないくらい高いレベルのパフォーマンスを発揮する状態を心理学では「フロー」と呼びます。
このフロー状態とは「個人が今行っていることに完全に夢中になり、自己意識がないなかでも自分をコントロールできている感覚がある状態」を指し、この状態になるための条件はいくつかあります。
そのうちの1つが、スキルと難易度のマッチングです。
人は、スキルが高いにもかかわらず挑戦が易しい場合には「退屈」を感じ、スキルが低いにもかかわらず挑戦が難しい場合には「不安」になります。
そのため、スキルに見合った目標を設定することで、人は目標達成に夢中になれる可能性があります。
目標を設定する際、ときどき組織の目標がそのまま個人の目標になっている、もしくは個人では達成できないものになっているケースがあるため注意が必要です。
たとえば、目標設定の演習で「野球選手の目標を立ててください」と依頼すると次のような目標が記載されることがあります。
テーマ:所属するプロチームの優勝
指標:ペナントレースの順位
水準:1位
これは組織の目標であって、個人の力だけでは達成不可能なため、本人が何をがんばればよいのかわかりません。
正しくは、チームとして優勝するための本人の役割や、何を達成しなければならないのかを検討します。
たとえば、野手であれば打率やホームラン数で投手であれば防御率や勝ち星数などが目標として考えられます。
反対に、目標を達成するための手段が目標として設定されているケースもあります。
たとえば、先ほどと同じ例であれば、「素振りを毎日100本行う」などは、あくまで目標を達成するための手段であり、目標ではありません。
実際のビジネスの場でも、目標と手段が混同されることは多々あるため注意が必要です。
④Relevant(組織目標にひもづく)
組織目標に沿って、自身の役割に適した目標を設定する必要があることは説明した通りです。
部下の目標設定時は、組織目標を示して目標設定を促すだけでなく、そもそも部下が何を目指しているのか、今期はどのようなことに取り組みたいのかを引き出し、理解して、組織目標との擦り合わせを行います。
そうすることで、部下は「上司が自分を理解してくれている」と感じることができます。
また、上司が組織目標の意義や意味、経営理念などを改めて強調することにより、部下がモチベーション高く、自律的に目標に取り組んでくれるようになります。
⑤Time-bounded(期限が定められた)
組織目標を達成する期日や期限を定めます。
達成期限は短くなればなるほど、具体性が高まります。
組織のリソースにもよりますが、求める成果に対して最も近い期日を設定するとよいでしょう。
早期達成すれば、また新たな目標に取り組むことができ個人の成長や組織の発展に寄与します。