等級制度

等級定義と等級変更

インデックス

等級定義

等級制度設計の前提となる考え方や段階を整理したあとは、各区分でどのような能力もしくは仕事を期待するのかを社員に理解してもらい、パフォーマンスや成長につなげてもらうことが重要です。

そのため、各区分に期待することを言葉で具体的に定義する必要があります。

これまでに考えてきたことや、社内で話し合った内容を見返した際に、たとえば能力ベースであれば、問題解決・チーム構築・ビジョン設計・人材育成など、頻繁に出てきた言葉はあるでしょうか。

そういった言葉を軸としつつ、求める能力をどのように定義するのか、特定の区分だけに求められる能力があるのかを検討します。

また、区分が変わるにつれて能力を発揮する方法がどのように変わるのかを意識しながら作成し、隣り合う区分の決定的な違いは何かを、きちんと説明できるようにすることが重要です。

この際、うまく言葉にできない、違いが何かをはっきりと表せない、という場合は、区分自体を見直すことも考えましょう。

また、「積極的に」「前向きに」などの姿勢を表す言葉や、「とても」「やや」などの程度を表す言葉を多用すると、人による解釈の幅が広がり、結果として制度の浸透が難しくなる場合もありますので、端的な表現を使用するよう心がけましょう。

職務評価を実施し、仕事の内容をベースとして区分した場合には、評価した職務内容の概要を言葉で表すことで、等級定義に近いものを作成することができます。

また、たとえば人事部長、人事企画課長、といったポジションごとに職務定義書を作る場合は、汎用的な等級定義はあえて作らないという選択肢もあります。

この場合は、職務定義書に含める項目を職務評価の項目と揃え、ある程度標準化しておくと、職務内容が変わった場合の再評価が容易になりますし、等級が変わる際の説明材料としての信頼性も維持することができます。

等級変更基準

等級制度というものがはっきりとした形で存在していない会社でも、昇格という言葉や考え方は存在している場合が多いのではないでしょうか。

昇格:現在属している等級よりも上の等級に上がること

降格:反対に下の等級に下がること

この2つの変更をまとめて等級変更と呼びます。

せっかく等級制度を設計しようと区分や定義を作っても、等級変更が適切に行われなければ、各等級の定義に当てはまらない人材が社内に増えてしまい、等級制度自体が機能しなくなってしまいます。

だからこそ、どのような場合に、どのような基準を満たしたら等級を変更するのか、また、何を判断の材料にするのかを、等級変更基準として定めておく必要があります。

等級変更基準の作成にあたっては、等級制度の軸を人ベースにしたのか、仕事ベースにしたのかによって異なる考え方をします。

まずは人ベース、つまり能力を軸として等級を作った場合の考え方について解説します。

能力を軸とした場合、『上の等級に求められる能力がある、もしくは身につけることを強く期待できる』と判断できる場合に昇格させる、というのが基本的な考え方となります。

この要件は一般的に“入学要件”と表現されます。

その対になるものとして、『現在の等級に求められる能力が安定して十分に発揮されている』と判断できる場合に昇格させる方法があり、こちらは”卒業要件”と表現されます。

一度昇格させたあとに降格させる場合には大きな労務リスクが伴います。

そのため、入学要件で昇格を判断した方が、リスクを低減することができます。

入学要件、卒業要件のどちらにするかを決定したあとは、その要件を満たす判断基準と材料を設定します。

一般的には、優れた評価を一定回数以上取得することを判断基準として用いるケースが多いです。

ただし、評価結果は直属の上司の主観で決まる場合が多いため、視点を多様化する必要があれば、面接、筆記テスト・論文・レポート、適性検査・アセスメントなどを材料として総合的に判断する仕組みを整えるのもよいでしょう。

入学要件を用いる場合は、現在の等級における評価結果だけでは、次の等級に見合う能力があるかどうか判断できませんので、確認のための業務を与え、遂行できたことを推薦書のなかで説明してもらうなど、補完する手段が必要になります。

なお、『優れた評価を5年以上連続で取得』のように、対象期間があまりにも長いと、若い人材の昇格スピードが遅くなり、社員に不満が生じる可能性があります。

あくまで入学要件、もしくは卒業要件を満たすことを確認するための基準として、合理的な範囲で設計しましょう。

ここまでは、主に上の等級に変わる場合を想定した考え方でした。

反対に、下の等級に下がる場合はどのようなことに気を付ける必要があるでしょうか。

降格するということは、少なくとも一番下の等級ではないため、昇格に値するという過去の判断によって現在の等級にいます。

つまり、一度あると認めた能力がなくなったことを立証しなければ、降格という判断を下すことは困難です。

そのため、低い評価を一定回数以上取得した場合に即時降格させるのではなく、一定の猶予期間を設け、リスク回避を行うことが一般的です。

猶予期間中は、会社として対象者の能力改善に向けたサポートを最大限行い、場合によっては能力が発揮できると思われる業務機会の提供などを行います。

それでも改善の見込みがない状態になって初めて降格という判断を下します。

その判断をする際も、社長も含めた委員会を設定するなど、直属の上司だけで判断するのではなく、会社としての判断ができるようプロセスを設計することがあります。それほどにリスクのある判断だということです。 こうならないためにも、降格時に適切な評価材料を用いて、降格を厳格に判断する必要があります。

仕事ベースで等級を作った場合は、能力を軸にした場合よりもシンプルになります。

仕事をベースにするということは、仕事の役割の大きさや難易度、影響範囲などと等級が対応します。

つまり、担う役割が変わるタイミングで、紐づけるべき等級と現等級とが異なる場合に等級を変更する、という考え方です

このため、等級制度においては等級変更の仕組みを特段作りません。

ただし、能力を軸にした制度に比べると、等級が頻繁に変わり得ること、特に下の等級に変わる可能性も高いため、「等級が変わったあとの報酬をどのように変更するか」ということを報酬制度のなかで十分に配慮して定めておく必要があります。

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